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八方塞がり?

昨日は体調不良で寝ました。ごめんなさい。

 実は国王様に今まで王妃様がいた事はなくて、ローデリヒ様のお母さんは側室のまんま。

 ローデリヒ様が小さい頃に亡くなってしまったから、私は会ったことはないんだけど、肖像画を見る限り、可愛らしい人だった。二十代半ば……イーナさん位の若さで亡くなってしまったらしいんだよね。美人薄命ってやつかなあ。


 本来なら、跡継ぎを産んだ人は正妻になるはずなんだけど……。私はその辺の経緯が全く知らない。

 ついこの間までローデリヒ様にあんまり興味を持ってなかったから、深く知ろうとも思わなかった。……今になって、すごく気になってくる。


 聞くタイミングなんて、幾らでもあったのに……!


 取り敢えず、国王様にはローデリヒ様しか子供はいないから、ローデリヒ様が跡継ぎなんだよね。

 さて、ローデリヒ様が王太子になるのは反対だとすると、誰がいいのか……。


「王家の血に下賎な者の血が入ってはいけませんわ」

「光属性魔法といえば、エーレンフリート近衛騎士団長が王太子殿下と光属性魔法に肩を並べるのでしょう?かの方はヴォイルシュ公爵家のご出身ですし……」

「でもヴォイルシュ公爵家はもう王家の血が薄くなってるわ」

「そうよねえ……。やはり私達が正当なキルシュライト王家を繋がなければ」


 自分達が世継ぎを産む、と口々に語り出す側室達に私は目が遠くなった。確かに子供が出来たら世継ぎにしたいだろうけど、子供出来る前からこんな事考えるなんて。どうやら本気でそう思っているらしい、という事だけが伝わってくる。


 後宮ってこんな事しかすることないのかな……?

 まだ子供も出来てないのに、ローデリヒ様を失脚させようとしてたの?私、来なくてよかったのでは?


 …………アーベルの事もあるし、帰りたいな。

 ちょっと後悔しつつある。


 それにしても、後宮にも勢力図とかいうやつはあるのか、上座に座っている人達は賑やかに話しているけど、私の周り……、下座に座っている人達は相槌を打つだけ。なんかよっぽど怖い目にあったのか、私の隣に座っている同世代位の赤髪の女の子なんて、真っ白な顔をしてガチガチに緊張している。


 この子だけじゃないんだけど、何ヶ所からお茶会が始まった時から不安や恐怖がビシバシ伝わってきてる。


 後宮、怖。


 そして、サラッとスルーしそうになったんだけど、よく考えたら息子と息子の嫁と同世代の女の子が後宮に入ってるって……。

 国王様、幾ら合法で大丈夫でも、流石にちょっと引くわあ……。


 ドン引きしながら顔だけはニコニコとしてたけど、隣に座っていた女の子が、何やらゴソゴソと膝上で何か手を動かしていた。


 なんだろう?って思って注視していると、赤髪の子は真っ白な手を彼女自身の紅茶のカップにかけた。その手から紅茶の中に()()が落ちるのを確認する。本当にちゃんとしてないと分からない程の鮮やかな手つきに、彼女が相当慣れている事が分かった。


 一体何を入れたんだろう……?と思って目を凝らそうとして――、我に返った。


「――?、ヴァーレリー?」

「は、はいっ」


 いつの間にかハイデマリー様が私のことを呼んでいたらしい。ヴァーレリーちゃんの名前勝手に使ってたから、反応に遅れてしまった。お茶会の参加者全員が私を見ている。


「ヴァーレリー?どうしたのかしら?」

「いいえ、何もございません」

「そう……。それならばいいわ。それにしても……、貴女、随分と紅茶を飲んでいないようだけれど、どうかしたのかしら?」


 ハイデマリー様が小さく首を傾げる。純粋に、不思議そうに。艶めいた外見をしているはずなのに、まるで少女のようだった。それが一層不気味で。


 目線を落とすと、手元のカップが目に入る。中の紅茶派注がれた時とまんま変わらない水位を保っていた。


 当たり前だ。

 飲んだフリをしていたのだから。


「そんな事ありませんよ」


 ニコリ、と笑顔を見せると、ハイデマリー様は花が咲くようにふんわりと微笑んだ。


「よかったわ。今日はこの日の為にお取り寄せした、わたくしの大好きなお茶ですの。皆様に飲んでいただきたくて振舞ったのですけれど、ヴァーレリーのお口に合わなかったら、どうしようかしらと思ってしまって……」


 スっとこの場の空気が五度位下がった。数いる側室達が、ハイデマリー様のお茶を飲めないなんて、といった空気を出してくる。完全に私が悪者になっていた。


 それに追い討ちをかけるようにハイデマリー様は、チラリと侍女の一人を見やる。


「ああ、もしかして、淹れた者が悪かったのかしら……?」


 ハイデマリー様に見られた侍女は哀れな程、真っ青になっていた。ここで私が頷いたら絶対侍女はクビになるだろう。もしかしたら、物理的に首が飛ぶかもしれない。


 変な風に注目を浴びてしまった私は、おそるおそるティーカップに口をつけたフリをした。


「……とても、美味しいですわ」

「そう。よかったわ……。沢山飲んで下さいね。おかわりもあるわ。ねえ?」


 ハイデマリー様が可愛らしい笑みを浮かべながら、片手を軽く挙げる。心得たように、私の近くにいた侍女がティーポットを持って私の傍に寄ってきた。おかわりしろということか。


 だけど、私のティーカップの紅茶は全然減っていない。


 ……確実に飲めということですよね。


 おまけに他の側室達は、ハイデマリー様の意を汲んでか次々に紅茶を飲み干している。そして、侍女に淹れたてを注いでもらっていた。


 完全にアウェーだった。


 怖くて飲みたくない。もし飲んで毒とか入っていたらお腹の子供まで影響がある。絶対に飲めない。


 私はやっぱり、ここに来たことを少し後悔した。

 精一杯飲んでいるフリをしながら、私はこの状況をどうするか悩みに悩んで、冷や汗をダラダラかいていた。


 いや、本当にどうしよう。どうしようか。


「本当にどうしたの?やっぱり具合でも悪いのかしら?それとも紅茶がもうぬるくなってしまった?」


 頬に手を当てて眉を下げたハイデマリー様に、慌てて「いえ、何ともありません」と否定をする。


 本当に心臓にもお腹にも悪い。やめてほしい。更にダラダラと気持ち悪いくらいの冷や汗が出てする。


 だけど、それは一瞬にして止まった。


「なら、飲めるはずなのに……」


 ――ねえ?王太子妃様?



 悲しそうに呟いたはずのハイデマリー様の声が、勝気な声と重なった。

 息を忘れてハイデマリー様を見つめるけど、ハイデマリー様の様子は変わらない。ややしょんぼりとした瞳で私を見返すだけ。


 他の側室達なんて、もう目に入らなかった。



 ――流石に自分の夫の失脚計画が立てられていると思ったら、誰だって気になるわよね?貴方自身の生活も掛かっているもの。



 頭に流れ込んでくるハイデマリー様の声。表情は落ち込んで辛そうなまま。


 そ、相当な役者だ……!!


 でも、私はローデリヒ様の事を貶めようとしているのが気になっただけで、自分の生活なんて考えていなかった。そういえば、ローデリヒ様が失脚したら私も茨の道を歩く事になってしまうし、最悪殺されてしまう。



 ――王太子妃様が人の心を読める、というのは本当なようね。強く思えば伝わる、だなんてわたくし全く信じていなかったわ。引っ掛かるなんて思ってもみなかったのよ。



 尚もハイデマリー様はどこか上機嫌に私の頭の中に語り掛け続ける。

 なんで、私が王太子妃だとバレたのか、なんでお茶会にまで連れて来たのか、なんで私を騙したのか、そんな疑問が浮かんでくる。


 けど、それよりも、


 なんで私の能力を知っているんだろう――?



 ――それで?わたくしの侍女が淹れたお茶はどうされるの?



 ハイデマリー様に誘導されるように、私はティーカップを持ち上げた。手先が小さく震える。けど、それを無理矢理抑え込む。


 役者的には、どうやらあちらの方が上手だったみたい。


 本気で後悔した。ローデリヒ様の言う通り、さっさと帰ればよかった、なんて。


 結局私は――、約立たずなんだろうか。


 これを飲んだらいけない。いけないんだ。

 何対もの目が私に集中する。

 こっそり背後や左右を確認したけれど、ハイデマリー様の侍女らしき者達に囲まれていた。いつの間にか、私が連れて来た侍女はいなくなっている。


 その手腕は鮮やかだった。

 まるで慣れているかのように。


 八方塞がりか――、と思った瞬間、上から何かが降ってきた。


「……わあっ?!」


 それは私の持っていたティーカップに直撃し、ティーカップは中身を撒き散らしながら、温室の床に当たって砕ける。陶器が割れる甲高い音が響いた。

 一拍の後に、状況の分かっていない参加者が金切り声をあげた。


 私は思いっきりドレスに紅茶がかかったのと、いきなりの出来事に開いた口が塞がらなかったが、逃走中の犯人の真っ白でまんまるとした後ろ姿を見つけて、助けてくれたのだと分かった。


 周囲の側室達がある程度落ち着いたのを見計らう。侍女達が慌ててタオルを、私のドレスの紅茶のかかった部分へと当てる。紅茶はすっかりぬるくなっていたので、火傷の心配はない。私も驚いたけど徐々に落ち着いてきたように見せかけて、ハイデマリー様に切り出した。


「も、申し訳ございません。ドレスが汚れてしまいましたので、退席させていただいてもよろしいでしょうか?」

「……ええ、火傷は大丈夫?わたくし心配だわ」

「ドレスが分厚いので大丈夫です。ご心配ありがとうございます」


 濡れたドレスを少し摘んで一礼する。ハイデマリー様も引き留めてはこなかった。


 おそらくハイデマリー様のであろう侍女達の包囲網を抜けると、私が連れてきた二人の侍女が私の姿を見るなり安堵した表情を見せて――みるみるうちに顔から血の気が引いていった。


 ……あ、そういえば、ドレスに紅茶が掛かってるんだった。


 後宮から出たくて自然と早歩きになる。行きと同じく、そんなに時間は掛からずに国王様の執務室の近くへと出た。侍女達の方を向いて、安心させるように笑って小声で話す。


「大丈夫大丈夫。紅茶はぬるかったから火傷もしてないわ。……だけど、ローデリヒ様とかに見つかったら不味いから、隠しておいてくれる?」

「お……奥様……。でも……」


 侍女の一人がチラリと私の足元を見る。私もつられてそちらの方を見ると、毛足の長い白いデブ猫がお座りをして私をジッと見上げていた。尻尾がふわふわと揺れている。


「ローちゃんさっきはありがと〜!!ちなみにさ?この事はローデリヒ様に内緒にしてくれないかな?!」


 思わずローちゃんを抱き上げてお願いすると、ローちゃんは器用に肩を竦めて呆れたような溜め息をついた。そして、そっぽを向く。


 ……え?何このめちゃくちゃ人間っぽい動きは……。

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