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後宮へ潜入?

誤字報告ありがとうございます!

昨日は寝落ちしてましたごめんなさい。

 ……えっ、王太子失脚って何?


 キルシュライト王家の直系は、ローデリヒ様一人のみ。キルシュライト王家の傍系はゲルストナー家とヴォイルシュ家の二つ。


 だけど、ゲルストナー家は先々代の国王様の王弟の一族だし、ヴォイルシュ家は更にその前に分岐した家系である。ゲルストナー家の宰相は、まだ国王様やローデリヒ様に似た色彩を持っている。そして、光属性魔法も強い。


 けれど、あまり会った事のないヴォイルシュ家の人達は、もうだいぶ血が薄れてしまっているのか直系とは色彩からして違った。そして、ヴォイルシュ家の中には、光属性魔法があまり得意でない人もちらほら出てきているらしい。


 要するに、キルシュライト王家は後継者問題が深刻なのだ。


 国王様の後宮に沢山の側室が今でもいるのは、跡継ぎがローデリヒ様と決まっていても、キルシュライト王家の血を次代へと繋ぐため。

 私が跡継ぎのアーベルを産んだ時、それはもうお祭り騒ぎだった。


 だから、ローデリヒ様は王太子である今、ローデリヒ様が次代の国王になるのは確実で、跡継ぎとしてアーベルもいるし、何も問題はないはず。


 ないはず、なのに――、

 人の欲に際限はないって事を、私は久しぶりに感じた。


 身近で起こっていた事なのに久しぶりに感じたという事は、私が引きこもっていて、そして、それが許されていたという事。そんなの私だけじゃ達成出来ない。


「……お茶会、ですか?私、ここに来たばかりで知り合いがいなくて……、」


 奥様、と私に呼び掛けそうになっていた侍女の一人を目で黙らせる。少し目を伏せて不安そうな表情を作ると、女性はクスクスとお上品に笑った。


「あら、やっぱり新しく入った子だったのね。随分と可愛い子だわ。貴女なら、わたくし達のお友達も気に入ると思うわ」

「ほ、本当ですか?」

「ええ」


 そして女の人は、その子を離してあげなさい、と私の腕を掴んだままだった侍女に命令を下した。侍女はしばし迷った末に、私の腕を解放する。


「わたくしはハイデマリーよ。貴女は?」


 彼女は家名を名乗らなかった。どこの家の出身かで、彼女がどういった背景を持って、ローデリヒ様を失脚させようとしているのかが、少しでも分かればと思っていたけれど。


 さて、馬鹿正直にアリサ(王太子妃)と名乗るわけにはいかない。


 ――けれど、私は()()()()()()()()()()()()


「私は……ヴァーレリーと申します」


 咄嗟に午後から私の元に顔を出す予定のヴァーレリーちゃんを思い浮かべた。特に珍しい名前でもない。ヴァーレリーちゃん、ごめん。少しだけ名前を貸して。


「ヴァーレリーね。可愛らしい名前だわ。さあ、いらっしゃい」

「は、はい!」


 人に命令する事に慣れている、と感じた。私が着いてきているか確認することなく、女性はコツコツとヒールを鳴らして先へ進んで行った。彼女の後ろには、三人の侍女が静かに付き従っている。女の人のインパクトが強すぎて、侍女の存在があまり見えていなかった。


 引き留めようとする私の侍女に口の動きだけで、大丈夫だと返す。あまりここで問答していては不審がられると、やや早歩きで女性の後ろを追う。幸いにもゆっくりと歩いていたので、直ぐに追い付いた。


 お茶会の場所はあまり離れておらず、無言が苦痛にならない位の時間で到着した。色とりどりの薔薇が咲き誇る温室には、もう既にかなりの数の先客がいる。彼女達は私を誘った女性の姿を認めるなり、皆一斉に立ち上がった。


「あら、皆さん。ごきげんよう。もう集まっていたのね」


 私を誘った女の人の言葉に、参加者はそれぞれ、ごきげんようと挨拶をする。


 なるほど。私を誘ったこの人は、後宮の中でも力を持つ方みたいだ。服装からして豪華だったから、何となく察していたけれど。友人達とのお茶会のはずなのに、急に私を招く程だから主催者かもしれないという推測は、実は少しだけしていた。


「ハイデマリー様。そちらの方は……?」

「ああ、そうだったわね。まだ紹介していなかったわ。ヴァーレリーよ。彼女、新しく入った子なの。皆さん仲良くしてあげてくださいね」


 ハイデマリー様の言葉に、参加者はにこやかに微笑む。初々しくて可愛らしい、なんて言葉を囀る内心で、罵詈雑言が飛んでいた。自己紹介を数人がしてくれたけど、思ったよりも人数が多くて、一人一人を覚えるのが大変そうだ。


 どうやら本当に国王様の事を慕っている……訳ではなく、単純に女のライバルが増えたことに対するものらしい。……国王様、なんかかわいそうかもとは思ったけれど、側室多いらしいからね……。自業自得感もある。


 ハイデマリー様のお茶会は三十代、下は二十になるかならないかという私と同世代位の少女まで様々だ。

 ハイデマリー様は侍女に命じて、私の席を作ってくれた。


 勿論、私の席は一番下座。ハイデマリー様は一番上座だ。人が多いので、地味に遠い。


 用意された席につき、それぞれ侍女に注がれたお茶を飲むのもそこそこに、口を開く。私はお茶を飲んでいるフリをした。だって私、何の茶葉入ってるか匂いだけでは分からないし。


「陛下は最近後宮にいらして下さらなくて……」

「どうやら、王太子殿下の所のアーベル殿下に骨抜きだそうよ」

「まあ。でも仕方ないわね……、アーベル殿下は今が可愛い盛りでしょう?」

「そうですわね……。ああ、わたくしの所に赤ちゃんが来てくだされば陛下のご寵愛をいただけるかしら?」


 国王様って最近後宮来ていないのか……、なんて思っていると、ハイデマリー様が窘めるように側室達の話を遮る。


「でもわたくし達は陛下をお支えしなければいけないわ。陛下は日々(まつりごと)で忙しくしていらっしゃるもの。わたくし達は陛下を癒し、そして、優秀なキルシュライト王家の血を残すために存在しているのよ。きっと陛下はわたくし達の元へ戻ってきてくださるわ」

「ええ。ハイデマリー様の言う通りですわ。ローデリヒ王太子殿下がいらっしゃるとはいえ、キルシュライト王家の素晴らしい血筋は沢山残して欲しいですわ」

「光属性の一族ですもの。それに陛下のように素晴らしい才能をお持ちの方もいらっしゃるわ」

「建国の英雄の末裔の方々に尽くせるわたくし達は幸せね」


 つまらないなとは思いつつ、頭の中に入ってくる考えにも集中する。どうやら血筋の事は本気で思っているらしかった。


 キルシュライト王家は光属性の一族。王家の先祖が光の英雄と呼ばれている、光属性の偉大な魔法使いだったらしい。その光の英雄が国民を率いて、腐敗した前王朝を倒して新たにキルシュライト王家を作ったんだと。


 アルヴォネン王国の王家には、キルシュライト王家のような伝承はない。だから、キルシュライト王家に嫁いできた時、王家の求心力が高いな――と思ったのである。


 アルヴォネン王家に反抗的な貴族は多くいた。だが、キルシュライト王家は国王に対しての反抗はほぼなく――、どちらかというと、国王周辺への目が厳しい気がする。


 国王様の能力は一般的に広く知れ渡っている。というか、非常にシンプル。

 光属性魔法と剣術と身体能力強化。

 王家以外では珍しい光属性魔法はともかく、剣術と身体能力強化は結構普通の能力。


 普通の能力、なんだけど、光の英雄と全く同じ能力なんだって。


 同じ光属性魔法でも、国王様に使えてローデリヒ様に使えない魔法があったりするらしくて……この辺りは、私は詳しく学んでいないから分からないや。


 私の能力なんて、使おうと思って使うんじゃなくて、自動的に発動するようなものだし。


 国王様は若い時は本当に凄かったと時々聞くけど、私は誇張なんじゃないかと思っている。だって、今日なんてマカロン食べてただけだったし。


 でも、この側室達の話を聞いていると、国王様の事を本当に凄い人と思っているらしかった。


「だからね、ヴァーレリー様。きっと今は不安でも、慣れるはずよ。陛下はお優しいもの」


 ハイデマリー様が赤いルージュの引かれた唇を上げる。ゾッとする程の美しい微笑みと共に告げられた言葉に、参加者達は一斉に私を見た。

 ……急に振らないでほしかったかな。


「……ありがとうございます、ハイデマリー様。ハイデマリー様に仰っていただけると心強いですわ」


 アドリブに慣れていて良かったと思った。慣れた経緯はあんまり良い事ではなかったけれど。

 じっくり私を見ていた参加者の一人が、口元に手を当てながら小首を傾げる。自らの可愛らしさを充分に熟知した動きだった。


「ところで、ヴァーレリー様はまるで伝え聞く王太子妃殿下と同じ色彩ね……」


 やっぱり、思うよね。特に変装も何もしてないし。


「そうなんですか?私、王太子妃殿下にお会いしたことがなくて……」


 「いえね、私もお会いしたことはないのよ」、と聞いてきた人は首を振る。だけれどその続きを他の人が引き取った。


「王太子殿下が望んだという?何故国外なのかしら?国内にも美女はいるというのに」

「王太子殿下はご側室を迎えないと仰っていらっしゃいますし……、王太子妃殿下のわがままでは?」

「まあ!でも意外と王太子殿下のわがままかもしれないわ。だって王太子殿下は半分はキルシュライト王家の血を引いてますけれど、半分は……ねえ?」


 コソコソと次第に脱線していく話に、リアクションが取れないまま唖然と見守るだけだった。いや、新参者は黙っている方がいい。


 だって、今でも口を開いているほとんどが、上座に座っている女性なのだし。下座にいる人達でも、挨拶以外で口を開いていない人もいる。


「ローデリヒ王太子殿下の身に流れる血も、アーベル殿下の身に流れる血も、キルシュライト王家の血が穢されているような気がしてならないわ」


 膝の上で拳を握り締める。私の周囲の人達を馬鹿にしようとしている者達の目に焼き付けるかのようにこっそり見る。


 なるほど、少しだけ話が見えてきた。

 これは……、たぶんキルシュライト王家至上主義の集い。


 実はね、今の国王様に王妃様がいた事ってないんだ。

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