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前夜戦と――ドレス選び?(他)

 月明かりは心もとない――、イーヴォはそう思いつつ短槍を振るった。


 首都キルシュの中心部に位置する王城は、普段と比べて浮き足立っている。城のほぼ中心にあるパーティー用のホールの一つで、アルヴォネン王国の王太子夫妻の歓迎パーティーが行われていた。


 勿論、王城の中でも最大のパーティーホール。参加するキルシュライトの貴族も数多い。他国の来賓をもてなす為に、大規模かつ豪華なものになっているはず。


 イーヴォ自身も本来ならば伯爵家の子息として参加する予定だったが、そうもいかなくなってしまった。


 近衛騎士として王城を巡回していると、()()()()()()()()()の多い事。


 パーティーが行われている周辺は、魔術的な明かりで照らされているが、それ以外の使用人用の寮や来賓用の休憩室辺りは暗い。

 来賓用の休憩室は基本的に男女が揃って入る場所なので、あまり明るくするのも野暮だけれど。


「だけど、今回ばかりは明るくした方がいいんじゃねぇの?って思わねぇ?思うよな?」


 両刃の穂先を自らに向け、柄の先で相手をいなしながら、軽い調子でイーヴォは同意を求めた。

 勿論、敵対する相手から返事など返ってくるはずもない。イーヴォも軽い愚痴のように話していただけだった。


 相手は短剣。イーヴォは短槍のリーチの有利さで、軽々と相手の手首を打ちすえる。

 相手が得物を落とした隙に、短槍を突き出して昏倒させた。


 懐から鈍色の金属の鎖を取り出す。

 慣れた手つきで侵入者を縛り上げながら、深々と溜め息混じりに吐き出した。


「魔力封じ完了……っと。今夜だけで侵入者三人とか多すぎんだろ……。警備どーなってんだ?」


 常時結界が張ってある。いつも侵入者などほぼ居ないキルシュライト王城にとっては、明らかな異常事態だった。


 考えられる要因は、アルヴォネン王国の王太子夫妻がやってきた事位か。明日の夜にアリサが出席するという話が漏れている可能性もある。


 アルヴォネン王国の王太子夫妻を狙っているのか、はたまたアルヴォネン王国の手先か。


 キルシュライト王国王太子妃がされた事を知っているイーヴォからしてみると、アルヴォネン王国の王太子夫妻には限りなく黒に近いグレーに思えた。


 ローデリヒから聞くアリサ像は、アルヴォネンでの悪い噂通りの人ではなさそうだった。

 むしろ噂については、結婚初夜で彼女の潔白が証明された。ローデリヒの怪我と引き換えに。


 過去に陰で男を侍らせていた可能性もあるが……、少なくとも貴族令嬢としてふしだらと呼ばれる程のものではないし、火遊びはしていないのはほぼ確実だろう。


 そんな経緯で、イーヴォはどちらかというとアリサに同情的だった。


 ただ、王太子妃という地位は彼女にとって相応しくないというヴァーレリーの言葉もよく分かっていた。

 だからこそ、アリサにとってこの世界は生きにくいと思っている。


「しっかし、前日でコレって明日どーなんだよ……」


 途方に暮れたイーヴォの声が無人の廊下に落ちる。

 後には、人間一人を引き摺る音だけが響いていた。






 ーーーーーーーーーーーーー

 ーーーーーーーー





 舐めていた。


 アルヴォネンの王太子夫妻の歓迎パーティーを軽く見てた。


 私自身、小市民どころか、ただの女子高生の貧相な想像しかないのをすっかり忘れていた。


 いや、パーティーってみんなでワイワイ集まって騒ぐイメージじゃん?

 ピザとかチェーン店で大量に注文したりとか。二リットルのペットボトルを紙コップで分けたりとか。あとデザートは近くのケーキ屋のプチケーキだったりとか。


 要は、ホームパーティー的なイメージだった訳だ。

 そりゃそうだよね。一国の王太子夫妻の歓迎会だもの。ホームパーティーな訳ないじゃん。


 思わず過去の私のアホ具合に頭を抱えた。


 でも、具体的な規模がイマイチ想像出来ない。それでもゼルマさんを含めた侍女さんに囲まれて、沢山のドレスが私の目の前に並べられた時、何だか大変な事になったと冷や汗が出た。


 そうだよね。一応王太子妃だもんね。量販店のワンピースとか着れる訳ないよね。


 ちらりと助けを求めるように、ローデリヒさんと視界を共有しているらしいデブ猫を見る。ローちゃんは堂々とソファーの真ん中陣取って、おやすみタイムに入っていた。駄目だ全く役に立たない。


 並べられるドレス全てが結婚式のお色直しに着るようなカラフルで、レースがたっぷり使われた物だった。

 正直レンタル物かと思ったけど、全て私のものらしい。ざっくり数えただけで50着以上あります……。

 そして、全部新品なんだって。


 素人目で見ても分かる。ドレスに使われているレースがかなりお高いものだと。

 そして、ドレスによってはレースにスワロフスキーみたいな、キラキラと輝く小さなビーズが縫い付けられている。


 あれ、本物の宝石だったりしないよね……?


「奥様。奥様は妊婦でいらっしゃいますので、ゆったりと着られるエンパイアラインのドレスを中心に選びました」


 並べられた豪華なドレスに、完全にフリーズしてしまっていた私。ゼルマさんは私の顔を覗き込みながら、ニコニコと説明してくれた。

 説明してくれたのはいいけれど。


「……エ、エンパイアラインってなんですか?」


 基本的にドレスを見る機会が無い庶民にとっては、呪文にしか聞こえない。


「エンパイアラインは胸下から切り替えがあるので、他のデザインと違ってウエスト周りはゆったりと着れるものとなっています。ベルラインと比べると……全然違いますでしょう?」


 比較として出してくれたベルラインを見てみると、ウエストをめちゃくちゃ細く絞っている。そして裾に掛けてふんわりとレースが広がっていた。物語に出てくるお姫様みたいなドレス。


 それに比べるとエンパイアラインはシンプルな雰囲気だけれど、ゼルマさんの言う通りウエスト周りは余裕がある。胸の下で切り替えがあるから、スカート部分が長い。レースの広がりもあまりない。


 まだまだお腹は全然ぺったんこだけれど、やっぱりウエストを細く締めるのは良くないかな?


 なんて、ベルラインドレスのウエストの細さに臆した私は、エンパイアラインのドレスにした。

 というか、妊娠してなくても入らないかも……、ベルラインの細すぎる……。


 それにしても、エンパイアラインのドレスだけで50着あるのだから、完全にどれを選ぶか目移りしてしまう。アリサに似合う服なんて分からない。


 ……いや、見た目は美少女だからなんでも似合うのか?


「……うーん、どのドレスが良いんですかね?今の流行りとかありますか?」

「既婚のご婦人ですとシンプルなAラインやエンパイアラインが主流ですよ。お色は今の流行りを取り揃えております」


 Aライン……なんかまた不思議な言葉が出てきた。

 取り敢えずシンプルなドレスなのね。私がドレス初心者すぎて話が全く進まない。


 ゼルマさんの太鼓判を押されたので、取り敢えずどのドレスを選んでもそんな変な事にはならないだろう。並べられたドレスを順に吟味していく。


 と、そこで一つのドレスに目が釘付けになった。

 ドレスの形自体は他と同じエンパイアライン。色は深い紺色で、レースや胸元に銀色に輝く宝石が付けられたシンプルなデザイン。

 ……この銀色の宝石、ダイアモンドなんじゃない?


 ジーッと私がドレスを見ていたのに気付いたのか、ローちゃんがゆっくりと起き上がる。そして、私が気になっていたドレスの前でおすわりをした。


 ……これはローちゃんの意思なのか、それともローデリヒさんの意思なのか。


 まあ、どっちでもいっか!

 ローちゃんに背中を押された気分になりながら、即決した。


「これにします!」

「はい。分かりました」


 ゼルマさんは皺の多い顔で微笑んだ。若い侍女さん達が、ゼルマさんの指示でテキパキと他のドレスを片付けたり、私を浴室へ引っ張って行こうとする。


 えっ、パーティー行く前ってお風呂入るの?!


 そして、空気のように私達についてきたデブ猫に向かって叫んだ。


「ローちゃん脱衣場にはついてこないで!」

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