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王国と――個人と?

 初めてだよ。

 人生初めてだよ。


 ――お城に足を踏み入れるのは。


 目の前にそびえ立つ大きな王城。キルシュライト王国首都キルシュの代名詞とも呼ばれている場所らしい。


 近くからは全体像が見えない。

 白い石は年季が入っているのか、所々灰色になっている。なっているが、物々しさを感じさせてむしろこれは……白亜の城よりホラー感が、あります……。


 せっかく、今までいた屋敷の雰囲気に慣れてきた頃だったというのに。オマケに今まで住んでた屋敷は築年数は建って二年経ってないんだって。


 めちゃくちゃ浅い。完全にアリサ用に建てられているのがよく分かる。


 なんかすっごい隔離されてたからね……。


 ちなみに王城は築城されてから、100年以上は経っているらしい。

 ……これ絶対いるやつだ。いるやつだよ。幽霊。


 思うとめちゃくちゃ怖くなってきた。真っ昼間なのに。

 もう膝、ガクガクです。


 大破した屋敷を今使用する事は出来ない。硝子は床に散乱し、必要な家具は全部庭まで飛んで行っていた。無事だったのは私とアーベルくんのいた場所だけだった。


 暴風は魔法により起こされたものらしい。魔力痕跡を辿ってみたけど、阻害されていたとの事。

 ちなみに魔力痕跡とは、指紋みたいに一人一人違うものなんだって。


 多分、ローブの少女がわざと私達を避けて風を巻き起こしたんだと思う。


 見つけた、と彼女は言っていた。きっと目的は私――アリサなんだろう。


 イーナさんとゼルマさんはヴァーレリーちゃんが守ったらしい。ヴァーレリーちゃんは、飛んできた家具にぶつかって足を骨折したんだと。

 治癒魔法で即治してもらったらしく、私が会った時はピンピンしていた。


 ローちゃんはかなり遠くの方まで飛ばされていたらしいんだけど、ソファーと壁の隙間に上手いこと収まって無傷だったらしい。


 お屋敷にいた他の護衛騎士さんと侍女さんも、怪我をした人は何人もいたみたい。ただローデリヒさんがもう治療済みで、みんな元気にしていると話していた。


 心底良かった……と安心すると同時に、治癒魔法ってすごいなと感心。


 聞くところによると、怪我は全て治癒魔法ですぐ治療したらしく、よほどの重傷でない限り、あっという間に治ってしまうらしい。便利な世界だ……、と思ったけど、治癒魔法は怪我以外には効かないとも聞いた。


 なるほど。だから私の記憶喪失誤解は、経過観察扱いになっちゃうのか……。


 今はもう不思議な声は聞こえてこない。ローデリヒさんが()()()()として、臨時の結界が張れるペンダントをくれた。


 現在、結界は私の周辺を覆うように展開されているそう。これが私の能力を抑えてくれるものだそうだ。


 私は他の人に触れないし、他の人も私に触れないという縛りはあるけれど、これでひとまず平穏を取り戻せた。


 ずっと同時に、色んな人から話し掛けられているような感覚だったからね。かなりうるさかった。

 人混みの中にずっと放り出され続けてる感じ。


 アーベルくんは、ローデリヒさんの腕に抱かれてご機嫌みたいだ。いつもより高い位置から見る風景が楽しくて仕方ないらしい。

 ぷくぷくした手がローデリヒさんのワイシャツを握っている。


「普段は使ってないが、王太子妃の部屋はいつも綺麗にしている。この王城はかなりの人がいて、落ち着かないだろうが……しばらくは我慢して欲しい」


 慣れたように裏口……と言っても、大きなマンションのエントランスレベルで大きい場所を通り抜けるローデリヒさん。


「大丈夫ですよ。仕方ないですもんね」


 お屋敷ほぼほぼ半壊したようなものだし……、本当に死人でなくてよかったよ……。


 ローデリヒさんに続いて城の中に入ると、どうやらそこは教会みたいな場所らしく、前方の中央部に祭壇が置かれ、参列席が並んでいる。

 天井までがかなり高く、天井にはフレスコ画って言うんだっけ?なんかすごい大きな絵が描かれている。


 ステンドグラスから差し込む光が祭壇を照らしていた。

 壁や柱には芸術を感じさせるような、何やら細かい彫刻等がされている。


 残念ながら、芸術センスゼロの私には何が何だか分からないけど。


 口をポカンと開けて、まるで地方から上京してきたお上りさんみたいに周囲を眺める私。ローデリヒさんはそんな私の様子にちょっと目をみはった。


「珍しいか?」

「そうですね……、こういう場所には来ませんから……」


 むしろ観光地って感じがする。


「まあ、少し経てば慣れるはずだ。貴女も短い間だが、王城に住んでいたからな」


 え、住んでた?これが王族の居城?これが家の一部なの?

 スケールが違いすぎてもう白目剥きそう。


 その後、シャンデリアが並ぶ長い廊下とか、金、銀、宝石が散りばめられた柱とか、天井一面フレスコ画の場所とか通り抜けて、なんとか目的地まで来た時は、すっかり疲れきっていた。


 豪華すぎて、庶民にはカルチャーショックが強すぎる。


 ぐでん、と軟体動物のようにソファーにへたり込む私に、ローデリヒさんは眉を下げた。


「すまない。まだ体調が悪いのに無理をさせたな……。一応近道を使ってきたのだが……」


 あれで近道……?

 移動だけで20分は掛かってると思う。


 オマケにすれ違う使用人の人達が廊下の端に寄って、私達が通り過ぎるまでみんな深々と礼をしているのだ。


 本当に実感が今まで湧かなかったけど、ローデリヒさんそういえば王太子様だったんだよね……。

 本当に実感湧かなくて、親バカな人くらいの感覚でいたんだけど。


 あれ、それならイーナさんにちょっかいかけまくっている、犯罪っぽい国王様ってもっと凄い人なんじゃ……?


 正しい認識に気付きそうになった時、ノックの音無しで扉が開く。

 全員そちらの方へと視線が集まった。


「ローデリヒ!何やら大変な事になったらしいのう!アリサも気を落とすでないぞ!皆が治癒魔法で治る怪我で良かったわい!事後処理が大変そうだから、ワシがアーベルの面倒を見てやるからな!イーナ、お主も来るのだ」


 オブラートに包みまくった上でのぽっちゃり系の中年男性――国王様は得意気にそう言った後、ひったくるようにローデリヒさんの手元からアーベルくんを取った。

 そして、器用にアーベルくんを片手で抱きながら、もう片手でイーナさんの腰を抱く。


 流れるような鮮やかな手つきに、一同唖然とする他なかった。


「ちょっ?!父上何を……?!」

「子守りはこの爺に任せよ!フハハハハ……イテッ」


 慌てて立ち上がるローデリヒさんに、国王様は高笑いしてながら立ち去ろうとしていたけど、アーベルくんに髭を引っ張られていた。


「ゼルマもアーベルを見ていてくれ」

「はい」


 ニコニコと穏やかに微笑みながら、ゼルマさんは国王様達の後を追う。やっぱりあの国王様凄い人じゃないんじゃないのか?ただのセクハラ親父なんじゃないか?なんて思ってるうちに、ローデリヒさんが人払いをした。


 室内には私とローデリヒさんだけが残った。

 さっきまでいたお屋敷の図書室より、ふかふかしているベルベット生地のソファーから身を起こす。


 絶好の機会だ。私はずっと疑問に思っていたのだ。


 多分碌でもない過去の記憶の中に、今回襲撃してきた少女との記憶があるのだろう。


 中々話し出さないローデリヒさんに焦れて、私は口を開いた。


「私の記憶の事なんですけど」

「貴女の能力の事だが」


 思いっきり被った。

 お互い気まずそうに顔を見合わせる。ローデリヒさんの話がとても気になったので、先にそちらについて教えてもらう事にした。


「貴女の魔法の属性が精神属性というのは知っているだろう?」

「はい。ヴァーレリーちゃんに教えてもらって……」

「精神属性は人の精神に干渉出来る属性だ。貴女も例外なく、他人の精神に干渉出来る――と、嫁いできた時に貴女は言っていた」


 渋い表情を浮かべたローデリヒさん。

 本当は過去の事はあまり伝えたくはないのだが、と前置きをして重々しく口を開く。


「精神属性を持たない私には、どういった感覚なのかは分からない。ただ貴女には何もしなくても、人の強い感情が伝わってくると話していた」

「人の強い感情?人の心が読めるみたいな感じですか?」

「読心術……の一種なのだろうと思う。私も以前聞いてみたのだが、人の強い感情しか分からないのだと。


 例えば誰かに対して強い怒りが一瞬芽生えたとする。しかし、その怒りは永続的なものではなく、段々と薄らいでいくものだった。その場合、一瞬芽生えた強い怒りの感情のみが読み取れて、薄らいでいく怒りの感情は読めない。

 つまり、感情の移り変わりの部分と、ささやかな怒りの感情には干渉出来ないと言っていた」


 複雑だ。複雑だけれど、なんとなく理解した気がする。


 結界がなくなった瞬間、伝わってきた感情。その多くが負の感情だった。

 普段から怒りっぽい人はともかく、殺意まで感じることはあまりないはず。


「だが、貴女のその能力は非常に便利だ。特に私達のような為政者にとっては。いつも内心何を考えているか分からない貴族ばかりを相手するからな」


 肩を竦めてみせたローデリヒさんだったが、次には眉間に皺を寄せた。


「その力を利用したんだ。アルヴォネン国王は。一時の強い殺意だけでも、自分に対しての叛意を推し量れる指標になる」

「アルヴォネン……」


 日記の中で出てきた名前だ。アリサの出身地かな?と推察を立ててた所。


「悪い者達に利用されないよう、貴女の力は秘匿された。貴女自身も悪用しないよう、魔法の使い方も教えていなかったと聞いている。アルヴォネン国王は()()()()()()()()使()()()をしたと貴女は評している」

「……それって、ルーカスって人と関わっているんですか?」


 確か婚約破棄をしていたと日記の中では書いてあった。たぶんアルヴォネン王国の人。噂っていうのも気になってる。


 だから何か関わりがあるのかなあ、と軽い気持ちで聞いたのに、場の雰囲気ば一気に重々しくなった。


 原因は分かってる。スっと目を細めたローデリヒさんが、地を這うような低い声を出したからだった。


「ルーカス、という名前をどこで知った?」

「……えっと、アリサが結婚当初から付けていた日記の中で出てきてました」


 明らかに不機嫌になったローデリヒさんに、何か悪いことでも言ったのだろうか?と内心首を捻る。


「日記?」

「そうです。……あ、そういえばお屋敷から回収してくるの忘れた」

「後で持ってこさせよう。……日記の中でルーカスという男についてどう書かれていた?……その、思慕の念がまだあるとか……?」


 思慕の念?好きってこと?

 なんだ意外とローデリヒさんも、そういった恋バナについて気になるのか。本当に意外だなあ。王太子様が俗っぽい。


 ローデリヒさんまだ十九歳らしいしね。そりゃ色々気になるお年頃だよね。

 でも残念ながら、その期待には答えられないかな。


「いえ、ルーカス殿下と婚約破棄して密かに喜んだ……と。それだけしか書いてなかったです」


 その後一ヶ月分読んだけど、ルーカスという名前は全く出てこなかった。


「婚約破棄して喜んだ……?分からないな……」


 片手で口元を隠して、訝しげに考え込むローデリヒさんを見ていて、私はとんでもない思い違いをしている事に気付いた。


 そりゃ夫婦なんだから、嫁から過去に婚約している男の名前出てきたら気になるだろう、と。

 俗っぽいとか、色々気になるお年頃とか思ってごめん。そりゃ普通に気になるよね。


 だって、嫁の昔の男ってことでしょ?


「それで、ルーカス殿下って関係あるんですか?」

「ああ……。ルーカス・コスティ・アルヴォネン王太子とは、アリサの能力がきっかけで婚約を結んだと言っていた。元々幼馴染みだったらしいが、その婚約も王国の為の正しい能力の使い方の一つだったのだろう」

「なるほど……」


 やっぱり怖い属性だとばかり思っていたけど、これ私が思うより随分と危険な属性みたいだ……。

 なんだか自分が怖くなってきた。


「一連の物事の側面しか見ていないが、私はルーカス・コスティ・アルヴォネンの事は好きになれない。……だが、実はルーカス・コスティ・アルヴォネンとティーナ・サネルマ・アルヴォネンが昨日からこの王城に滞在している。もし接触があったら充分に気を付けろ」


 昨日から滞在で、今日お屋敷大破?

 えっ、なんかそれ凄い関わってます感強いんだけど。


 そして、ローブの少女が私と面識あったのって、もしかしてアルヴォネン王国の人間だから?


 そして、ルーカスって人との婚約の経緯を知って、私は疑問に思ったのだ。


「……ローデリヒさんは私の能力が貴重だから、私と結婚したんですか?」

「いや、違う。貴女の能力を知ったのは結婚してからだ。……だが、皮肉なものだが、貴女を知るきっかけになった大元の原因は、貴女の能力だろう」


 キラキラと輝く金髪を乱暴に骨ばった手でかきあげた彼は、真顔で目線を下に落としてポツリと吐き出した。


「為政者として見ると、貴女の能力はとても便利だ。


 だが、私はその能力は統治する上では要らないと思っている。叛意があろうと無かろうと、実際にそれを行動に移すかどうかは分からない。準備するギリギリで思い留まる者もいるだろう。最後の最後まで迷い、選択し、決断するのは彼ら自身だ。気持ちだけで罰してしまえば、圧政にしかならない」


 だから、とローデリヒさんは一拍置いて、私を真っ直ぐに見つめた。


「貴女は平穏に過ごしてくれるだけでいい」

話の進行に関係ないちょっとした加筆修正のご報告。

第一話

 ちょっとテンションあがった。でも問題はそこじゃない。

 ちょっとテンションあがった。違う、問題はそこじゃない。


第二話

段落下げ出来てなかったとこ。


第六話

 ヴァーレリーもシャツにベスト姿で書類を必死に捌いている。まだ慣れてはいないだが、真剣に取り組んでいた。

 ヴァーレリーもシャツにベスト姿で書類を必死に捌いている。まだ慣れてはいないが、真剣に取り組んでいた。


第七話

「はいそうです」


 ヴァーレリーちゃんが軽く手を振ると、火の玉は跡形もなくなった。

「はいそうです」


 背筋を伸ばして頷く。オカルト系には詳しくないんだよね。

 ヴァーレリーちゃんが軽く手を振ると、火の玉は跡形もなくなった。


第八話

 ローデリヒさんはバルコニーで立ち尽くしている私の隣に立つ。彼が指を1つ鳴らすと、一気に庭に蛍のような光が満ち溢れた。場が一気に明るくなる。

 ローデリヒさんはバルコニーで立ち尽くしている私の隣に立つ。彼が指を1つ鳴らすと、一気に庭に蛍のような光が満ち溢れた。場が一気に明るくなる。

 多分暗い所が苦手な私に配慮したんだろう。


第十四話

「流石に子供を連れ帰る事は出来ない。アーベル殿下はこの王国の跡継ぎだからね。いくらアリサが可愛がっていたとしても……僕はアリサが辛い環境から逃がす事を優先させる」

「流石に子供を連れ帰る事は出来ない。アーベル殿下はこの王国の跡継ぎだからね。いくらアリサが可愛がっていたとしても……僕はアリサを辛い環境から逃がす事を優先させる」

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