面倒な親友
ロクに使い物にならない足を引きずること五分、校門まで辿り着いた。
「……待っててはくれないよな」
辺りを軽く見て二人がいないと判断すると呆れてため息をついてしまう。
あの勢いのまま駅まで走っていったのか、俺のことなど気にせずに何気ない会話をしながら歩いているのか。
「アイツらバカだからどっちもあり得るな」
ズキズキと微妙な痛みを感じるふくらはぎを、屈みながら手でほぐす。
この行為で痛みが引くのかは知らないが休憩がてら、ほぼ無意識にやっていた。
「確か、君は……森島 紅馬君だね」
「ん?」
粗方ほぐし終わり立ち上がり帰路に着こうとした時、目の前から声をかけられた。
目の前である。先程、二人を探すために見回した時にはいなかった筈だ。
立ち上がるまでその存在、気配に気付く事すらなかった。まるで存在そのものを疑いたくなるレベルで。
「君は……誰だ?」
顔を見ても面識がなかったが、俺の名前を知っているという事は多分クラスメイトだろう。
「僕かい?僕は、佐野 寛吉っさ!!」
「………」
本当に存在していいのかこの男。
っさ!!って何だよ、存在感ありまくりじゃねえか。
「えっと、佐野は同じクラスなのか?」
「うん。そうだね!僕と君は……同じ!クラスっなんだ!!」
やばい奴に目を付けられたな、これ。早いとこ撒こう。
「それで、何か用か?用がないなら俺はこれで……」
「用はあるよ!」
早く帰りたいオーラをぷんぷんに撒き散らし筋肉痛である事を忘れた足を動かして逃れようとするも、目の前に佐野がいた。
「ぼ、僕と……と、と、ととと、友達になってくぅーださい!!」
「……お、おう」
なんなんだこいつ、正気な状態なのか?熱とかあるんじゃないのか?
「ほ、本当かい!?親友になってくれるのかい?」
「お?ランクアップしてないか?まあ、良いけど」
変な奴だな。別に友達だろうが親友だろうが大した差は無い。
が、こいつ、どこか裏がありそうだ。
「やったーぜ!!」
——オープン
こいつが本当に親友と本心から思っているのであれば、真なる心の表れは弱体化し、弱々しい姿に……
『あーー、良かったーー。高校入ってイメチェンしたのに友達出来ずにまたボッチになるかと思ったわーー』
これは、佐野 寛吉の本音。
つまり、佐野には裏が存在しないという事だ。
しかし、裏が存在しなくとも真なる心の表れがいないとは。佐野は過度に人を信用しやすいのだろう。
『は!いかんいかん!!僕は出来る男!僕は出来る男!』
——クローズ
「ところで紅馬君。足が痛いのかい?」
「あ、ああ、ただの筋肉痛だ」
さっきまでキョドっていた佐野だったが急に頼もしく気を遣ってきた。
「だったら、家まで送ってあげるよ」
佐野の言葉と共に校門の目の前に黒塗りの高級車にが停車した。
車には詳しくはないが絶対に高級車だ、違いない。
「お前……」
こいつまさか大富豪とかの息子なのか?
佐野は高級車の方を向きドアノブに手をかける、と見せかけてしゃがんだ。
「さあ!俺の背中に!!」
「………え?」
訳がわからん。
今から車に乗ると言うのに何故おぶられなければならないんだ?
———ちょっと……
背筋が凍った。佐野の謎の行動の意図を読み解こうとしていると、後ろから透き通った声が俺の背中を突き刺した。
「今度は何だ?」
振り返り、その声を持ち主を見る。
まるで人形の様な女性だった。整い過ぎている顔立ち。少しグレーがかった髪は真っ直ぐ腰辺りまで伸る。
学年はリボンの色的に二年生の先輩だ。
「……はぁ……退きなさい」
「え、えっと……」
その容姿に不覚だが見惚れていると鬱陶しそうに右手であしらわれた。
確かにこの女性は魅力的だが、どうして退かなければならないのか。
俺が退かなくても校門を通過する事は簡単に出来るというのに。
しかし、ここで何となく繋がった。
この女性が高級車に乗るべき存在なのだと。
佐野の言動からして俺をおぶって送ってくれるつもりだっただけで偶々高級車が到着した、ということだろう。
「す、すみません……おい佐野、こっちこい」
「ん?ああ」
しゃがんで俺が乗るのを待っている佐野を引っ張り、女性に道を譲った。
「……あ、新入生か。これからは気をつけなさい」
「はい」
俺たちが退くとコツコツ足音を立てて高級車に乗り込んだ。
エンジン音を立てて走り出していったそれを呆けて見てしまっていた。
「佐野、あの人知ってるか?」
「さ、さあ。でも、あれが噂の黒紅のお嬢かな?」
「黒紅のお嬢?」
聞き慣れない通り名、というか現実に存在するんだな通り名って。
「知らないのか?二年生ながらに生徒会副会長の東山 来未だよ。容姿端麗、頭脳明晰、運動神経バッテンらしいよ」
「ふーん」
凄い人だというのはわかった。しかし、一学年上の生徒会役員となれば関わる事は無いだろうから頭の隅っこに追いやった。
「佐野は家何処なんだ?俺は電車乗るんだが」
「おお!丁度いい!俺の家は駅の目と鼻の先だ!これから毎日一緒に帰れるな!!」
「……あ、ああ」
どうやら、毎日一緒に帰れる事になったらしい。退屈しないな!
「さあ!背中に!!」
「歩ける……」
面倒な事にならなければいいが……