高校入学
歩く事五分、高校の門をくぐった。
「…普通に間に合ったな」
始めのペースが速すぎたのか思いのほか時間に余裕があった。
「それにしても紅馬体力なさ過ぎでしょ」
「まあ、引退してからロクに運動なんてしてねぇからな」
最後の夏。俺と鉄は全国だかで優勝した。
相手の真なる心の表れをジノアーに狩ってもらい、相手の考えがわかったからだ。
そんな事をして俺は優勝し、なんだか冷めてしまった。
相手や鉄はどれ程努力してきた事か。俺はこの力を手に入れてから努力をする事をやめてしまった。
もう、頑張れる気がしない。なら、辞めてしまおうと。
俺が心を読んだのはこの時だけではなく考査や受験でも読んでいた。
でなければ千春と同じ高校に入学する事など出来るものか。
「私達のクラスは確か1-Bだったよね?」
「確かじゃなくて確実だ」
事前に届いた通知にしっかりと明記されていた。
下駄箱に靴を入れ上履きに履き替え教室に向かった。
教室に入ると俺ら以外の生徒は揃っていたようで視線がこちらに集まる。
「………」
「あっ!おはよう」
俺は自分の席に向かうが千春はどうやら友達を見つけたみたいだ。
席は教室の窓側の真ん中辺りだ。五十音男女別で、ってそんな説明は必要ないか。
つまり、宇田である千春とは真逆の位置である。これで当分、千春に突っかかられる事は少なくなるだろう。
「………」
やる事もなく周りを見渡す。俺の知り合いは千春以外にはいない。それは、俺に知り合いが元々少ないからであるが。
そんな中、真横の席の女子に目が止まる。
その生徒は初日だと言うのに机に蹲り寝ている。
……が、何故だろう見覚えがある。
「…おい」
「…!?」
俺が声をかけるとその生徒はビクッと反応する。
「こんなところで何やってんだジノアー……」
「…て、てへぇ〜」
顔を上げ、バレちゃったかーみたいな反応する。
「……魔王の力を使い、入学した。それだけだ」
「お前、そんな力あったのか」
こいつは俺の真なる心の表れって事になっているが実際は謎の奴らが創り出した魔王だ。多分。
それくらいの力はある、というのか?
「怒ってるか?」
「別に、お前にはいつも助けらてるからな。怒る理由なんて無いだろ」
その言葉を聞いてジノアーは机から離れ、堂々と椅子に座る。
それと同時に担任と思しき人物が入ってきた。
「どうも。今日はお日柄も宜しい中ね。こうやって、皆さん元気に。ねえ。これからこのクラスを受け持つ担任の中谷 真日郎というものです。一年間よろしゅうな」
ピッチピッチのお爺ちゃんが黒板に大きく自分の名前を書いた。
「じゃあ、出席取っていくので、名前を、よばれたら、返事を、してください。はい」
長々と中谷おじいちゃんの名前の読み上げが始まった。
そして、この時俺は疑問に思った。ジノアーよ、お前、魔王 ジノアーとか名乗ってないよな?
「えっと、森島…詩乃亜」
「はい!!」
なんだ、普通の名前か。少し期待したのだが。
「森島 紅馬」
「…はい」
ん?
「おい、何で森島姓を名乗ってる」
「えっ?…俺とお前は一心同体みたいなものだからな」
「そんな事思った事ないぞ」
別に同じ森島だからなんだというわけでもないが。
そして、今の会話で少し辺りが騒ついたぞ。変な勘違いされてるなこれ。
点呼を取り終わると廊下に並ばされ、体育館に向かった。
「じゃ、これからはよろしくなのだ」
「まあ、全然話せん人よりはいいが」
体育館に入ると二、三年に拍手で迎えられた。席に着くと校長が出てきて、長話かと思うとすぐに終わった。
それから色々と進行し入学式は幕を閉じた。
「ふぅ、長かったな」
「いや、短い方だろ。中学の時は立たさせたまま校長が一時間ぐらい黙々と喋ってたからな」
「まじか!?」
「まじだ、まじ」
「それはご愁傷様だな」
体育館を出てきた道を戻る。そして、教室で簡単に今後の予定を告げられ初日は終わった。
「紅馬ー、帰ろ」
そして、貰った書類を鞄に押し込んでいると千春がこちらに来た。
「ああ、そうだな」
「あ、千春!俺も俺も!!」
「あ、詩乃亜ちゃん。久しぶり!いつぶりだっけ?」
……え?あれ?何で二人面識あるの?
「し、知り合いか?」
「うん、詩乃亜ちゃん、紅馬の従兄妹なんでしょ?」
「………千春、ちょっと待ってろ」
「う、うん」
俺はジノアーの手を取り教室から出て、人気のない所に向かった。
「で?」
「ん?」
「……何で千春と面識があるんだ?」
「一人で外歩いてたら偶々声をかけられな、つい名前を呼んだらそこからグイグイと迫られて」
「で、俺の従兄妹と名乗ったと」
「ああ、俺の魔王としての頭脳をフル回転させて導き出した」
遠くから聞こえる小さな足音が気になるぐらい人気が無いこの場で、ジノアーは大いに笑った。
「……千春だけか?」
「ん?その後千春に鉄哉を紹介された」
何故だか、にやりと笑みを作ったジノアー。その顔のせいでなんか信用出来ねえんだよな。
「紅馬?まだー?」
「ああ、帰るか」
「よーし、千春!駅まで競争だ!!」
「ふっふっふ。詩乃亜ちゃん、私を舐めるなよ!!」
正直、千春と鉄ならジノアーの事がバレてもそこまで問題はないと思っていたが、この様子じゃバレねぇな。
「……って置いてかれたな」
廊下を全力疾走する二人をのんびりと足を動かせながら見ていた。因みに足が痛い。筋肉痛である。