9 衣食住は大事。
おー! ヨーロッパやん! 行った事ないけど、こんな感じなんだろな!
俺はワクワクしながら、街に入っていった。もちろん両手に花の状態で。
不安しかないけど、二人の温もりがおじさんを癒してくれる。
街は都会って感じでもないけど、人々には活気があり、冒険者風の人達もそれなりにいるしね。
俺が街を眺めていると、クラウス君がこちらに来る。
「アキラさん、すみません。僕達は、一度ギルドに報告してきますね」
「エステル~、行くっスよ~」
「ちょっと待ってっ、カティアっ! アキラまたあとでね!」
クラウス君は挨拶をして、皆を連れて行く。エステルちゃんは、カティアちゃんに手を引っ張られながら、名残惜しそうにこちらを見ていた。
また後でと申されましても、俺は一体どこに行けばいいんでしょうか?
途方に暮れていると、アリスちゃんがニコニコしながら、こちらを見ている。
どうしたの? 二人きりになったから嬉しいのかな?
「アキラおねえちゃん! こっちこっち!」
「ええ? ちょ……どうしたの? アリスちゃん?」
アリスちゃんに手を引かれ、街の中を歩き出す。
道行く人に挨拶をされ、アリスちゃんは元気よく返事をする。
アリスちゃん人気ものだねぇ。でも一体おじさんをどこに、連れて行っちゃうんだい?
それなりに歩いて行くと、周りの民家も少ない場所に連れて来られた。街の中心から離れた場所だ。
唐突に立ち止まるアリスちゃん。
「おねえちゃん!着いたよ!」
結構大きいお家の前に着いた。
着いたって言われましても……。ここは一体? 結構良いお家ですけど? あれ? 大丈夫これ?
不安なっている俺の手を、引っ張って行くアリスちゃん。
ちょっとアリスちゃん? ここってまさか……。
「ただいまぁ~!」
アリスちゃんは、玄関のドアを勢い良く開けて入って行く。
「おお! アリスやお帰り。大丈夫じゃったか? 怪我はしておらんか?」
中から出迎えてくれたのは、ローブを着た背の高い老人だった。
おぉ! すげぇダンディな、おじいちゃんだ。 なんかローブも似合ってるし。
一緒に入ってきた俺と目が合うダンディじいちゃん。
「おや? アリスその淑女の方は、どなたかのう?」
いやぁ~淑女だなんて。 中身はおじさんっすよ、ダンディじいちゃん。
俺が照れていると、アリスちゃんが説明してくれた。
「アキラおねえちゃんだよ! アリスとフーにいちゃんを、魔物から助けてくれたの! すっごかったんだからね!」
俺のことをべた褒めするアリスちゃん。
いやいやぁ~アリスちゃん。そんな大したことはしてないですって。おじさん照れちゃうよん。
ダンディじいちゃんが、俺に駆け寄り手を取る。
「なんとお礼を言っていいのやら! わしの可愛い孫娘を、よくぞ助けてくれました! さぁさぁ! どうぞ中に入ってくつろいでください!」
なんか凄く感謝されちゃったよ。まぁでもこんな可愛い孫娘だったら、そりゃ大事だよなぁ。
元気よくアリスちゃんとじいちゃんに、手を引かれ家の中に案内される。
途中の廊下も内装が洋式で、ほんと洋館って感じなんだなぁ。昔やったゾンビが出てくるゲームみたいだな。あれかな? 隠し扉とかあるのかな? おじさんでもホラーとか、ちょっと苦手かな。
ワクワクしながら進んで行くと。客間のような場所に着いた。
部屋の中は、調度品や絵が飾られ、暖炉まで設置されている。ソファーに促され、座ってみると。なかなか座り心地も良くリラックスできた。
やっぱりソファーは、いいよね。フカフカでおじさんのヒップが包まれいくよん。
アリスちゃんも、俺の横にピョンっと腰かけ、楽しそうにしていた。おじいちゃんの方は、お茶を用意している。
この世界にも、お茶とかあるんだね。やっぱりローズヒッ……、おっとやめておこう。おじさんは、危ない橋は渡らないんだよ。
思いついたら言いたくなる衝動を、押さえながらお茶を眺める。
ティーカップに注がれるお茶は、とても良い香りがした。アリスちゃんもティーカップを取り、美味しそうに飲んでいる。
俺もティーカップに手を伸ばした。
おっ、これは美味しいな! 紅茶っぽくてうまい!
俺が紅茶に感動していると。ダンディじいちゃんが、俺の方を見ながら話しかけてきた。
「孫娘を助けてくれて感謝しておる。わしは、ジョイス・ラクナー。アリスの祖父にあたる者じゃな。しかし、森で何があったんじゃ? わしにも教えてくれんかのう?」
俺がどう説明したもんかと、悩んでいたら。隣に居たアリスちゃんが、はいはーい! と元気良く説明役を引き受けてくれた。
「それでね! アキラおねえちゃんがバーンってやると、おっきい火が消えちゃったんだよ! それでみんな仲直りしてね! でね! でね!」
アリスちゃんが白熱して説明している。ジョイスさんもニコニコしながら聞いていた。
大方の話は、伝わったかな? 結構大袈裟に言ってる気もするけど、まぁ大丈夫だろ。
説明を終える頃には、少し疲れた様子のアリスちゃん。
うんうん、一生懸命話してくれたね。良い子だね。
優しく頭を撫でてあげると、ちょっと照れくさそうに笑っているアリスちゃん。
アリスちゃんの頭を撫でていると、ジョイスさんが話し始めた。
「すまんのう。いろいろと迷惑をかけたようじゃな。エステルは、わしの教え子なんじゃが……、感受性が豊かでのう。時より暴走してしまうんじゃ。そうじゃ! 当分うちに泊まるといい。なぁに大した事は出来んが、衣食住くらい面倒は見れるぞ? 外国から来たんなら、ここで色々と覚えて行けばよい」
やったぁ! これでホームレスに、ならずにすんだよぉ! アリスちゃん達助けてよかったぁ! 流石に野宿はつらいよ!
俺が歓喜していると。横に居たアリスちゃんも、ワーイ! おねえちゃんと一緒だぁ! って喜んでくれている。
その様子を見つつ、ジョイスさんが話を続ける。
「それにじゃな。エステル達もここに、泊まる予定なんじゃ。あれじゃろ? 色々とまだ、わだかたまりがとれておらんじゃろ。一緒に過ごせば、それもそのうちなくなるじゃろうて。アリスも友達が、沢山出来たら楽しいじゃろうし。」
ジョイスさん良い人過ぎる。ちゃんとお礼言わなくちゃ! 大事だからね!
「ジョイスさん……。本当に色々と、ありが『アキラー! 居るの!?』」
俺がお礼を言い終わるまに、勢い良くエステルちゃんが乱入してきた。
エステルちゃん、元気になって良かったよ。でも、お礼くらい言わせてよん。
エステルちゃんに続き、先ほどのメンツが入ってきた。
「お久しぶりです、先生」
「お! 師匠! 久しぶりっス!」
「こらエステル、勝手に入っちゃ駄目だよ? すみません、先生。お久しぶりです。」
「師匠すみません。相変わらずこいつら元気なもんで」
口々にジョイスさんに挨拶をする。
本当にみんなジョイスさんの、教え子だったんだねぇ。みんなちょっと嬉しそうだね。ジョイスさん好かれてるんだね。
苦笑いを浮かべながら、ジョイスさんが話す。
「相変わらずお前達は、元気じゃのう。エステルや、挨拶くらいして欲しいものじゃ。そんなに心配せんでも、アキラさんは当分うちで、面倒見ていくから安心せい」
それを聞いたエステルちゃんは、俺に詰め寄ってくる。
「ほんとなのアキラ! 嘘じゃないわよね?」
そう言いながら、じっと見つめてくる。
「う……うそじゃないよ? 住むところも、お金も持ってないからね。本当に助かったよ」
俺がそう言ったあとに、エステルちゃんが小さな声で呟く。
「そう……。……よかった……」
あれ? 俺もしかして、結構したわれてる? 友達出来ちゃった感じ?
見つめあっていたら、ジョイスさんが声をかけてきた。
「ほれほれ、積もる話もあるかもしれんがあとでも大丈夫じゃ、皆疲れているんじゃろう。今の時間だったら風呂屋も空いておるから、さっさと汗を流してくるんじゃ。アリス、アキラさんを案内して、一緒に入ってきなさい」
アリスちゃんが、ハーイと元気よく返事をすると。女性陣のみならず男性陣も乗り気だった。
さっそくみんなでジョイスさんの家を出て、公衆浴場に向かって行った。
お風呂とかもあるんだ、みんなお風呂すきなんだね。俺も結構好きだからよく銭湯いってたなぁ。それに結構歩いたし、汗もかいちゃったからさっぱりしたいね。
ふと気づいた。
俺ってそういえば……、どっちのお風呂に入った方がいいのかな?