7 ツンツン娘と街へ②
「それじゃぁお二人さん! 準備の方はいいっスね!」
ハリキリケモミミカティアちゃん、その前には少女二人が向き合っている。片方は中身がおじさんなんだけどね。
先ほどのカティアちゃん乱入により、ルールが決まりいざ勝負! まぁ勝負っつても俺が盾でエステルちゃんの魔法を防ぐだけなんだけどね。
それでも結構危ないよね? 保険とかないようだし。
リーゼちゃんから借りた盾は、材料が主に木材のバックラーみたいなものだ。
対するエステルちゃんは、ご自慢の杖を持ってやる気まんまんだった。
大丈夫かな? 魔法とかなんか良く分からない事多いし。
「ふんっ! 見てなさい! すぐに私の魔法で倒してあげるんだから!」
そう宣告してくるエステルちゃん、あれおかしいな? なんかこの線より後ろに下がったら負けとかだったような? 倒すってちょっと過激じゃないですかねぇ?
やべぇなぁっと思いながら、エステルちゃんを見つめる。
この子もツンツンしてるけどすごい可愛い子なんだよねぇ、まいっちゃうなぁ。
透き通るようなブロンドに、目には真っ赤に燃えるような赤い瞳。体は小さくて華奢だが、淡い赤いワンピースドレスがとても似合っている。
凛とした顔つき、そこがまたいいのよね。可憐さの中に確かな力強さもあって素晴らしいね。あとはそう、ケモミミに目がいっちゃててあれだったけど、この子耳がエルフみたいななんだよね。すごい長いわけじゃないんだけど、他の人達よりは確かに尖って長いからね、やっぱケモミミもいるからエルフもいるかぁ…。
俺はふと気づいた。でもたしかエルフって魔法得意なような?
「行くわよ! 火の精霊よ、私に力を貸しなさい! ファイアボルト!」
うぉお! 杖の先から火が出てるよ! あ、これ俺に向かってくる奴だね。
エステルちゃんが魔法を唱えると、短い矢のような火がこちらに向かってくる。
バンッ……シュゥゥ……。あっあぶねぇ! これまともに食らってたら怪我するぞ。
なんとか盾で防いでみたものの、受けた所は若干焦げ付いていた。
「ふん、やるじゃない! でも次はそうはいかないわ!」
魔法を唱え始めるエステルちゃん。
次って? え? ちょっと今ので終わりにしてくれないの?
「ファイアボール!」
アリスちゃんが見せてくれた魔法よりも、さらに強力そうで、スイカくらい大きくなった火の玉が飛んでくる。
ああっと、これは流石に死んじゃうかな? なんかせっかく可愛く生まれ変われたのにもう終わりか。
そん事をしみじみ思いながら、怖いので盾で自分を守る。
盾に衝撃が来たと同時に、爆発音が響きわたる、そして熱風が勢いよく通り過ぎていった。
手が少しジンジンするけど、これはなんとか生き残れたんでしょうか? 怖くて目つむちゃったよ、周りを確認しないとな。おぉ……俺の前方が軽く火事になっておりますな、でも俺自身は特に燃えてもいないから大丈夫そうだな!
「なっ! やっやるじゃない! でもこれなら!」
焦りはじめたエステルちゃん。
もう俺は勘弁してほしいんです……、すいません……本当に調子に乗ってすいませんでしたぁ!
周りの観衆は、ワーワーキャーキャー言ってるね。まぁアリスちゃんとカティアちゃんなんだけどね、凄い二人盛り上がっちゃてるしね、お祭り感覚だよありゃ。
そんな中心配そうに、俺を見つめるリーゼちゃん。マジリーゼちゃん可愛い。
ん? その中で一人焦り始めるクラウス君、どうした? やっと止めてくれんのか? そう思っていたら。
「駄目だ! それはエス……」
何か焦って止めようとしてくれるクラウス君。詠唱が終わったエステルちゃんが、こちらに両手を向けた。
「インフェルノ!」
エステルちゃんと同じくらい大きくなった炎の塊が、こちらめがけて飛んでくる。避けようかと思ったが、後ろにアリスちゃん達がいる。
こりゃどうしたもんか……。
俺の真後ろの方から応援していてくれたために、俺が避けるとアリスちゃん達に当たってしまう。ニック君が飛び出してるけど、たぶん間に合わないだろう。
もうこうなったらヤケクソだ!
一歩前に出る。左手の盾を大きく振りかぶり、炎の塊を思いっきり殴る。
これで少しは角度が変わってくれたらラッキーなんだけどなぁ。
若干もう自分の事は諦めつつ、なんとか後ろの子達に被害が出ないように行動する。
熱を感じたが、一瞬で消えた。
炎が消えちゃった? あれ? なんだろ子供騙し的な奴だったの? もう悪戯が過ぎるよエステルちゃん、おじさん本気で死を覚悟しちゃったよ。
「なっなんで……そんな…」
エステルちゃんがオロオロしている、オロオロエステルちゃんもなかなか可愛らしい。
オロオロしているエステルちゃんに、クラウス君が駆け寄っていく。
お? これはイチャイチャシーンですかね? イケメンの役得ってやつだよね、ズルイ。
そう思っていたのは、どうやら俺だけらしいっすわ。
「エステル!!」
バチーンッ、乾いた音が響く。
うぉっ! いきなりビンタってあんたそりゃ! 愛には確かにいろいろあるだろうけど、そうゆうのなのか、そうゆうプレイなのか! 俺だってまだそこまでいった事ないよ!
先ほどまでオロオロしていたエステルちゃんは、ビンタされて我に返ったようだ。
赤くなった頬を押さえ、自分のやった事を考えてるのかな? あれちょっと、まずいんじゃない?
「うっぐ……ひっぐ……、ご……ごめんな……さい……」
ちょっとイケメン何してくれちゃってんの!? 泣いてもうたがな! あんたは女泣かせるの慣れてるかもしれないけど、こちとらそんな機会滅多にこねぇんだからな! 心のダメージが半端ねぇんだからな!
「エステル、さっきの魔法はかなり危険なのは分かっているね? アキラさんがなんとかしてくれていなければ、後ろに居た二人も危なかったんだよ? エステルは、魔法の才能があるんだから、ちゃんと正しく使わないと駄目だよ。お兄さんやお姉さんだって、そう伝えてたはずだよ?」
す……すげぇなイケメン、あんな可愛い子の涙も気にせずそのまま説教て、いや確かに危ない事だったよ? 駄目な事は駄目って言わないといけないけどさ、そんな可愛い子の涙の前で怖気づにいけるって、
イケメンってやっぱすげぇんだな……。
「ごめ……さい……ご……うっぐ……」
おいおい……さっきより泣いとるがな……、ええい! こうなったらやるしかない、でっでぇじょうぶだ! 中身はおじさんでも見た目は女の子だからいけるはずだ!
そっとエステルちゃんに駆け寄り抱き寄せる。
「ごめんねぇ、おねえちゃんイジワルだったね。エステルが可愛くてついついちょっかい出したくなっちゃたんだ。大丈夫だよ、クラウス君とは何もないし、おねえちゃんも怪我とかもないから安心してね?」
そう言って抱き寄せたエステルちゃんの頭を優しく撫でてあげる。
「――ッ!!」
胸の中でひっくひっく泣くエステルちゃん。これはたまんねぇっすわ。
「エステル僕も言い過ぎた、ごめん」
イケメンはそう言って、抱き着かれてる俺ごとハグをかます。
こいつやっぱすげぇな。見た目女の子だからとはいえ、二人一緒にいきますか、さすがイケメンっすね。自然にこんなことできるなんて、なんかちょっと自分の匂いが気になる年頃な俺には、そんな事できねぇよ。あ、ちなみにクラウス君は良い匂いでした、ええ……とても爽やかなイケメンな匂いでした。
エステルちゃんが少し落ち着いてきたので、離れていくクラウス君。
イケメンのハグも悪くないもんだなと、感じる残念なおじさん。俺も離れようかなって、思っていたらエステルちゃんがなかなか離れてくれない。むしろ離そうとすると逆にひっついてくる、これはこれで……。
ふと視線を感じたので、そちらを見てみると。なんかリーゼちゃんとアリスちゃんが感極まってる様子でこちら見てる。
残りの三人もなんか、良かった良かったと感傷にふけってる。
ちょっとそこのケモミミさん、あなた外野みたいな顔してるけど、あおったのあなただからね! 半分以上ケモミミさんのせいだよ! 何だかんだいろいろあったけど……結果オーライだ!
その後は、キャンプの片づけをしている。
なんかエステルちゃんずっとくっ付いてんだけど。あれかな? 懐いてくれたって事でいいのかな?
リーゼちゃんから借りてたバックラーさんは、木っ端みじんになってました。
俺達を守るためにあいつは……。
あ、ちゃんとすごく丁寧に謝罪をリーゼちゃんにしたところ、お許しを頂けたので安心です。弁償しようにもこっちのお金持ってないから助かった。
片づけが終わったので、街に戻るとのこと。まぁ俺もこんなところ一人じゃ心細いから、もちろん付いて行きますよ。近くに街道があり、そこから歩いて三時間程で街に着くらしい。
うーん、キツイ。
街道を歩いてると、左側にはエステルちゃん、右側にはアリスちゃんという両手に花の状態。
いやほんと、生きてて良かったわ。こんな事なかなかないからね。あとでお金とか請求されないよね?
仲良く三人で歩いて行くと、やっと街が見えてきた。おおう……なんか思ったより立派な街じゃん。
こうしてなんとか人里近くまでこれました。
でもあれだよね? 寝るとことか、お金とかどうしよう?