1 気が付けば女子①
ん……?
いつの間にか寝ていたらしい。
「あら? ここどこだろ?」
独り言をつぶやいても返答は帰ってこない。
まぁそりゃそうだよな、周りには木しかないもんな。
とりあえずどうしようかと思いつつ、起き上がってあたりを見回した。
これはあれですね、森林って奴ですわ、ヤバイやつですわ。
あたりには背の高い木々が生い茂っているし、小鳥ちゃん達の声やそよ風。気持ちいい日差しでやたら爽やかだし、なんかもう自然って感じがやばい。
いや待てよ、俺の住んでる地区にこんな場所あったけ?
多少なり自分の住んでいる所は、自然はあったがこんな大自然ではなかった。
これはもしや遭難ってやつですかね。
うんうん、周り木しかないしね、小鳥ちゃん可愛いしね。
マジかッ! マジなのかッ!
今後の展開を予想したら、ものすっごく不安になってきた。
コンビニでから揚げとウメッシ○的な物買って歩き食いしてただけだったのに……。
あれか、あれなのか! ウメッシ○的なもんで気持ち良くなってこんな辺鄙な所まで旅してきたってのかい?
これはまずいですね。明るいうちに人が居るところまで行けないと、こんな自然的な場所で寝ないといけないんだよね。いやでもそんな事より捜索隊とか出されたらあれの費用めちゃくちゃ高かったよな。
あわあわと一人で不安のため挙動不審になっていると、少し離れたところから何か音がする。
しかもこれは……人の喋ってる声っぽいな。こりゃ行くしかねぇ! まだ俺は破産するわけにはいかんのだよ!
なれない森の中をでこぼこした道なき道を走り抜ける。途中何回かこけて痛かったけど、そんな事より人が居る場所にいかねばっ!
思ったより遠かった……。だが、気合でそこはなんとかしつつ、やっと近くまでこれた。
声がはっきりと聞こえる。なんか物々しい雰囲気なんですが。
「アリス! 僕の後ろにさがって!」
茶髪の少年が、小さい子を守ろうとしているようだ。
「キャー! フーおにいちゃん!」
小さい子も急いでおにいちゃんと呼ばれた少年の後ろに隠れた。
俺は少し高い位置からその光景を見ている。
何にそんなに警戒しとるんだろう?葉っぱが邪魔でよく見えないのでどけて見るとそこには…。
「野良犬……かな?」
大型犬くらいある灰色の犬が一匹と、茶色の小さめの犬数匹が、少年たちにじりじりと迫っている。
これは危ないな……。野良犬は変な病気とか持ってるし、あんな小さい子を守りながら逃げるのも大変そうだし、追い払うにも難しいだろう。
うーん……どうしよう?
俺も野良犬が怖くないわけじゃないけど、ここで助けないとあの子たちあぶないしな。何よりやっと見つけた人だ、帰り道もここがどこかもわかるはずだ。
覚悟を決めつつ流石に素手じゃ危ないから何かないかと探してみると、近くに丁度良さそうな木の棒を見つけた。
その木の棒を右手に握りしめ、大きい灰色の犬に狙いを定める。
たぶんあいつ追い払えれば他のも逃げるだろう。駄目でも逃げる時間稼げるかもしれない。幸いまだワンコロどもは、こちらに気づいていない。奇襲で一気にいくしかない!
位置が少し高いが距離はそんなに離れていない。俺は軽くジャンプして横から着地と同時にダッシュした。
ワンコロはこちらに気づき、振り向いたがちょうど俺が振りかぶっている。
「オルァッ!」
叫び声と同時に、ワンちゃんおやすみ! 心の中でそう叫びながら木の棒を振りぬいた。ワンコロに棒が当たった瞬間、パンッ! と乾いた音がしたと思ったら棒が粉々になっていた。
ありゃ? これそんなに硬い木じゃなかったのかな……。そう思いながら次はどうしようかと考えつつ、殴った相手を見てみた。
はわわっ!
ワンちゃんの頭がむいちゃいけない方向むいちゃってるよ!
他のワンコロは急に現れた相手に、リーダー格をやられてオドオドしている。
明らかにリーダーは、お亡くなりになっているから逃げてくれないかな? これあれか? リーダーがやられたからお礼参り的な感じでくるのか!?
「わあああー!!」
俺は唐突に叫んだ。ワンコロ達はビクッと体を震わせ逃げて行く。
犬畜生で良かったです……。
ふうぅ……なんとかなったけど結構危なかったな、なんか思ったよりワンコロでかかったし。
ワンコロを追い払えて安堵していると、助けた子供たちがこちらに駆け寄ってくる。
「危ないところをありがとうございます!」
少年が元気よくお礼を言ってくる。お礼なんていいんじゃよ、ちゃんと俺をおうちに返してくれればそれでいいんじゃよ。
これで帰れるんだなと安堵していたら、今度はちっちゃい女の子が抱き着いてきた。
うんうん、元気があっておじさんも安心だよ。
そう思っていた。次の瞬間まで。
「おねえちゃんありがとう!」
赤色の綺麗な長い髪をした、小さい子にお礼を言われてまんざらでもない気分。
うんうん、元気よくお礼が言えてえらい子だね。おじさんそうゆう子好きだな。ちょっと危ない人みたいになっちゃっているけど、これで安心だと思えて浮かれてるおじさんなんで許してほしいな。
「でも残念ながらお姉さんじゃないんだよ、おじさんなんだよ。」
そんな中性的な感じでもないしね、ウメッシ○飲んでたらこんなとこ来ちゃうちょっとダメなおじさんなんだよ。
うんうんと、頷きながら少女と話していたらなんか、あれ? 空気おかしくない?
困ったような顔をしながら、俺に抱き着いていたちっちゃい女の子がこちらを見ている。
おや? 少年のほうもこちらを不思議な顔で見ている。
「おねえちゃんはおじさんなの? アリスから見たらおねえちゃんだよ?」
うんうん、そんなに怖かったんだね。おじさんをお姉さんと間違えちゃうくらいなんだもんね。
「アリス、きっとお姉さんは僕達の事を安心させようと冗談を言ってるんだよ。こんなに綺麗な人がおじさんのはずがないよ」
おっと、少年も結構怖かったのかな?それとも話しにのってくれてるのかな?
爽やかに笑う少年の顔を見ながらそう思っていた。
ん? 茶髪の子よく見たらハーフ顔の、いやてか外国人やんこの子達。俺ずいぶん遠くまで来たんだな。
「そうだったんだ! すっごくキレイなおねえちゃんだもんね!」
キャッキャしながら俺に抱き着いてる女の子が言ってきた。うーん? と悩みながら抱き着いてる女の子の顔を見ようと下を向いた時に、自分の異変に気付いた。
おやおや? 女の子の顔の位置になんか俺の体から出てんな、いや俺マッチョじゃないしこんな胸筋ねぇけど。
いやいや、ちょっと、え? ええ? えええ?
女の子に抱き着かれながら、もしかしたら胸筋がすごく、ものすごくこの一瞬でついたかもしれないと、そう願いながら触ってみる。
ぷにぷに……。
ぷにぷに……。
うん、これ脂肪だわ。
あんれぇええ!? こんな事になるようなことしてないよ! ウメッシ○なのか!! ウメッシ○のせいなのか!?
「おねえちゃん……大丈夫?」
狼狽えている俺に、優しく声をかけてくれる女の子。そしてあっしも気づけば女の子。
うんうん、どうしようかな。
「ッ!!」
「ごめんね……ちょっと離れるね」
女の子に優しく声をかけ、少し離れて自分の体を確認する。そう、おもにマイサンを。
さすがにマイサンはあるでしょと、自分を納得させつつ確認作業を開始。
あ、これダメな奴だ。
はわわっ!
マ、マイサンがが!
心配そうにこちらを見ている二人、それどころじゃない俺。
ゴテンッ!!
テンパって後ずさり、さっき寝かせたでっかいワンちゃんに足を取られぶっ倒れる俺。
そして意識はなくなっていった。
マイサンもなくなっていた。