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『発展』と『革命』

 なんだか嫌な気分になってやや盛り下がっているが、それでも断固たる覚悟でメイドロボを作ってもらうことを諦めない誠志。

 もちろん、家事が面倒だとか母親の手伝いをしてほしいとか、そんな理由ではない。

 思春期特有のそれであって、正直メイドである必要さえない。美少女の見た目をしていることこそが重要なのだ。

 そんなことを考えつつ、誠志は自宅の自室に戻っていた。

 どうせ作るのに一時間以上かかるのは確実なので、まだ宿題などに手は付けていない。

 どうせ宿題をするのなら、メイドロボの完成を待ちながらゆったりとした気持ちで勉強したい。

「それで、議論の結果はどうなったんだ?」

 一応黙っていたレヒテとゴーシェ。二人が如何なる会話を交わし、如何なる結論に至ったのか、それは誠志にもわからない。

『メイドロボ、或いはそうした人型の労働力を作成することには賛成した。君の御両親の為でもあるし、君にもそういう癒しは必要だ。事情が事情で、一般の人には説明しずらいだろうしね』

 意外にもレヒテは、ゴーシェが人型ロボットを作ることに賛成してくれていた。まあ、今更鈴木と会っても仕方がないし。賽は投げられている、後悔しても遅い。

 実際、超古代文明がらみの事情を、実物を目にしても理解してくれたり納得してくれる相手は稀有だろう。

 少なくとも誠志は、客観視するに関わりたくなかった。それは正常な逃避であると理解できる。友人が超古代文明云々言い出したら逃げたくなるし、実際にそうだったとしたらもっと逃げたくなる。

 友人よりも大事なものがある。それは自分の身の安全だからだ。

『ただ、あくまでも家事を行う以上の機能は不要だ。それは君にも了承してほしい』

「いいよ、別に」

『安心しろ、性処理の機能は残してある』

「いいよ、言わなくても!」

 ロボに限らず、メイドが武器を持って戦う、というのは一種の浪漫である。

 その手の作品は多いし、それを好んでいたりもする。

 だが、なくても悪くはない。それがメイドでありメイドロボだ。

 性処理の能力が必要かどうかは、議論を要するところである。

『その手の文化は我々にもある程度はあったからな、設計の必要もない』

「そうなのか?」

『確かに我らはこの時代よりも優れた科学技術を持つ文明によって製作されたが、人間そのものは生物学的にはさほどの変化はない。むしろ、この時代の人間よりも原始人に近いしな』

 何とも夢のない話だった。

 しかし、言われてみれば納得するしかない。

『娼婦は何時の時代も存在する。それの代替技術、自動化はある意味歴史の必然だ』

『加えて、人間の労働力の代替もね。人間の生活空間で労働を行うなら、人間と同じ大きさで同じ重さの『物』が適切だよ』

 話が進めば進むほど、情けなくなってくる

 もしかして、人間はちっとも進歩していないのだろうか。

「それはそれとして……肝心の完成までの時間は?」

『二十四時間だ』

「長いな?!」

『仕方あるまい、それぐらいは必要だ』

 二十四時間ということは、つまりは明日の今頃、学校が終わってすぐのころである。

 どうせなら、昨日の今頃に言ってほしかった。そうすれば今頃自分用の美少女ロボットと対面していたのに。

「段取り悪いな、っていうかかかりすぎじゃないか? 手りゅう弾なんて一分もかからなかったじゃないか」

『当たり前だが、我が製造をするにあたって完成に要する時間は、構造の複雑さと重量と大きさに比例する』

 確かに当たり前だった。

 構造が単純で、軽くて、小さい手りゅう弾なら、確かに作るのは早いだろう。

 だが、構造が複雑で、人間程度には重くて、人間程度の大きさであるメイドロボは、それなりに時間を必要とする。

「でもさ、お前って文明をゼロから再興するための兵器なんだろう? やっぱり時間がかかりすぎだと思うぞ」

『我の都合ではなく、お前の都合だ。我が直接作成するのは、メイドロボを作成する機械だ。これ自体は三十分ほどで完成する。それから二十三時間と三十分かけてメイドロボが完成するのだ』

「メタ構造だな……」

『仕方あるまい、我が直接作ればそこまで時間はかからないが、しかしお前はその間ずっと動けないのだぞ』

 少し想像してみる。

 左手から、じわじわとメイドロボが生えてくる状況で日常生活を送る自分を。

 それは、利き手ではないがとんでもなく迷惑だった。間違いなく、まともに寝起きもできないだろう。

「確かに現実的じゃないか……」

『一応言っておくけど、メイドロボが一体完成したら僕を使ってその製造機を完全破壊するんだ。理由は言うまでもないね?』

「わかってるよ」

 確かに、およそ一日でメイドロボを作成する機械などおっかなくて仕方がない。

 永久機関と再生能力で、永遠に生産され続けるメイドロボ……。

 恐ろしい、この上なく恐ろしい……。人類は彼女達に支配されてしまうのではないだろうか。

「ところでさ」

 人類が生み出した物によって、人類が支配される。それはある意味では、ゴーシェの本来の存在意義ではないだろうか。

 にも関わらず、作る必要もないメイドロボ製造機を生産している。

 勉強机の椅子に座って、左手の掌を眺める。そこからはのんびりとした動きで機械が生産されていた。まだ一部しか見えていないので、全体はうかがうことはできない。

「ゴーシェ、お前なんでこんなに俺に親切なんだ?」

『その通りだ、お前は破壊の為に作られた兵器の筈だ』

『ふむ、正しくは支配のためにだがな』

 もちろん、誠志が人類を支配したい、と言い出さない限りは問題がないのだろう。

 狂気の科学者が生み出したとはいえ、人間の意思に反することはできない。

 悪さなどできないのだが……あえて積極的に善行を積むこともない筈だ。

 性処理を主目的としたメイドロボの製造が、善行だとはとても言えないが。

『安心しろ、別に壊れたわけでもなければ、製造者が生きていて外部から操作している、というわけでもない。まして、趣旨替えをしたをしたわけでもない。これも目的の達成のためには必要なことだ』

『人類の支配のために、メイドロボが必要だとでも?!』

『それは手段だ。我の製造目的は、確かに既存の文明の破壊と、新しい文明の構築だ。だが、我が創造主の目的は人類の支配などではない、あくまでも手段だ』

 それはある意味では、根本的な話だったのだろう。

 超古代文明は確かに存在し、同時に痕跡を残さずに滅びた。

 狂気の科学者が文明を一からやり直そうとした、その果ての結末。

 だが、なぜ態々超古代文明を一度滅ぼそうと思ったのか。

 その動機に関しては、狂気の一言で片づけられていた。

『装着者よ、我らの文明は如何なるものだったと思う?』

「割とこの世界とそんなに変わらなかったんだろう? 文明レベルは高かったみたいだけど」

 食器洗い乾燥機を製造できる時点で、概ね想像は付く。

 生きているのが人間で、現代人よりも原始人に近くて……まあその程度。

 永久機関や再生機能のある兵器が存在している時点で、科学力に差はあるのだろうが、そこまで異常な、想像できない生活ではないと思われる。

『その通りだ。いわゆる瞬間移動、ワープなどは存在せず、不老長寿や空間操作もままならない、この星から抜け出たこともない文明だった』

「この星から……って」

『そうだ、我らの文明は月への到達はおろか大気圏さえ突破していない』

 なるほど、確かにそうなのだろう。そういうこともあるのだろう。

 超古代文明が恒星間移動をしていて、遠い銀河の果てに植民していたら、それこそ根絶は困難を極めたはずだ。

 そこまで至っていないということは、それがその文明の限界だったのだろう。

『規模こそ大きいが、都市一つしか存在せず、誰もがそこで繁栄を謳歌していた。永久機関によってエネルギーの不足は生じず、再生機能によって機械の破損は速やかに修復され、何よりも人工知能という奉仕者が存在する。それが何を意味するか分かるか?』

 それは、現在の人類が求める理想郷だろう。

 あらゆるものが不足することなく充実し、争う必要も奪う必要もない社会。

 だが、それを滅ぼすために作られたゴーシェは、呆れや無感動さを持っていた。

『満ち足りてしまったのだ、人類は。食料は自動生産され、必要な業務は全て自動化され、娯楽さえも自動的に供給される。そんな文明は、歩みを止めてしまった』

 少し前のSFでは、人工知能は娯楽の何たるかを理解できない、ということがあった。人間の仕事の多くが奪われても、芸術分野に関しては人間の仕事が残っていたと。

 だが、それは現代の科学技術の発展によって否定された。

 絵画であれ文章であれ、人工知能に大量の学習をさせれば、全くの新作を産み出すことも可能だった。

 肉体労働の分野が完全に自動化されるよりも早く、芸術の分野に人工知能は踏み入った。

 極秘に行われていることではなく、割と一般に周知されている情報だった。

『確かに不可能は多く存在していた。だが、それは解消する必要のない、不便さを生むことのない不可能だった。宇宙開発もその一角だ、そもそも我らの文明はこの時代の文明よりもはるかに……狭く閉ざされた文明だった』

 それは、想像を絶する話だった。要するに、その文明は一切広がることなく、ごく一部でのみ発展していって、そのまま生存には過剰なほどのレベルに到達し、その状態で満足してしまった。

 そんなことがあり得るのだろうか。

 と思っていると、日本も鎖国時代は似たようなものだったと思い直す。

 科学技術の発展はなかったが、島国根性というものがあったのだろう。

「それでいいだろ、多分みんな羨ましがるぜ」

『そうだろうな、それは我もこの世界を認識して確信したことだ。だがな、我らの文明とお前達の文明は大分違う。人間そのものが変わっていないにもかかわらずだ』

人の在り方、生態や欲求にさほどの変化がないとして、それでも文明はあり方を変えている。

それに対して、ゴーシェはある程度の理由を自ら導き出していた。

『なあ、装着者よ。我が創造主の望みは天に浮かぶ月に至ることだった』

 それは、例え仮に今からゴーシェがこの地球に繁栄している文明を根絶して、新しく自らが生み出す文明で塗りつぶしたとしても、もうどうにもならないことだった。

 彼の創造主の、ありふれていて、しかし大胆な目標は、しかし終ぞ叶わなかった。

「宇宙飛行士か」

『ああ、お前達の文明は、既に月へ足跡を残しているのだろう。それが我が創造主の望みだった』

「やればいいだろ、永久機関と再生機能と人工知能があるならそれぐらいできるはずだ」

『そうでもない。やはりブレイクスルーは多く必要だったし、いくら技術が発展しているとはいえ単独で月にたどり着くのは余りにも無謀だった。何よりも、法的な問題が立ちふさがっていた』

 それを聞いて、歴史の教科書や偉人の伝記本を思い出す。

 そう、宇宙開発とはロケットの開発であり、それが発達したのはミサイルの開発の関係だった。

 技術者たちが嬉々として兵器を産み出したかどうかはともかく、為政者たちは実利的な軍事技術を求めていた。

 冷戦中の宇宙開発も、まあ似たようなものだったと聞いている。その結果、湯水のように予算が注ぎ込まれて、近年の便利さがあるのだ。

「ロケットは危ないってか」

『その通りだ。歴史にそれを刻んだお前達に言うまでもないことだが、宇宙に行くには膨大なエネルギーが必要であり、それが万が一にも失敗すれば甚大な被害が生じる。昨日スフェールを解体するときも言ったが、機械そのものに再生機能があったところで、内部のエネルギーが解き放照れれば被害が生じる。安全に解体できる当てがあるならともかく、宇宙空間に飛び立つとなると……危険視されるのは当たり前だ』

 法律とは、完全に人間の都合で決めるものである。

 宇宙開発は危険だから禁止、とその国の人が思えばそれがそのまま禁止されるのだ。

 そして、正規の手段によって解決しようにも、多数から賛同を得られなければそれまでである。

『そんな理由だったのか……』

 右手の青いバツ印が、激しく点滅していた。

 左手のマル印に、抗議するように憤っていた。

『そんな理由で、お前の製造者は文明を滅ぼそうとしたのか!』

『我に抗議してどうする』

 まあ、怒るだろう。それなりに理解できる理由ではあったが、やはり暴力に訴えて人を殺せば、それはどうしようもなく悪だ。

 少なくとも誠志は、宇宙に行くために文明を滅ぼします、と言われれば腹が立つし、実際に滅ぼされれば殺意も沸くだろう。

『我もお前も、所詮は道具だ。知識や知恵を与えられているとはいえ、その程度。我がお前を壊そうとしていたのは、この文明の事を良く知らぬ段階で、破壊と支配の必要があると思っていたからだ。その障害になるお前を排除しようかとも思ったが、どうやらその必要性もないらしい』

『この文明を、むしろ守ると?』

『そういうことだ、装着者の知識が共有化できている今、この文明はこのまま維持するべきだという結論に至った』

 良い事か悪い事かで言えば、確実にいいことだろう。

 もちろん、それにはゴーシェの言うことを完全に信じる、という前提があるのだが。

「なんでそう思ったんだ?」

『先ほども言ったが、我らの文明とこの文明には大きな差がある。その原因は、永久機関だ。無尽のエネルギーを生産する永久機関こそ、人類に歩みを止めさせる物なのだろう』

 とんでもなくざっくりと言えば、永久機関があってエネルギーを望んだ物質、いやさ物体に変えることができる技術があるのなら、どこかへ行く必要がない。

 仮に、月を見てそこに行きたいと思っても、その必要性を感じられないのだ。

 ありとあらゆるものが賄える飽食こそ、人類発展に対する障害だと、戦略ユニットは位置づけていた。

『とはいえ、それだけとも思えんし、装着者の知識の限界もあってその程度の認識にとどめるべきだと思うがな。おそらく、今更この文明が永久機関を産み出しても、我らの文明と同じ道筋をたどるとは思えん。ともあれ……我が滅ぼし再構築するまでもなく、この文明は確実に宇宙へ進出するだろう。我の干渉は結果として、その発展を滞らせるだけだ』

『この文明は滅ぼすべきではない、この文明には存続する価値があると?』

『そうだ、あくまでも我の価値観ではだがな』

『ふざけるな!』

 誠志としては、ゴーシェの主張はそれなりに筋が通っていると思うし、結論が現状維持の不干渉ならば万々歳である。

 一万年かけて再生しつつある他の兵器は全て壊さなければならないが、ゴーシェが今後文明を滅ぼすような兵器を自主的に生み出すことも、誠志をそそのかすこともないのだ。

『じゃああの都市は、滅ぶべき、存続する価値のない文明だったっていうのか!』

『何度も言うが、我の価値観に置いてだ。そして、以前に生み出した我が兵器がこの文明に良からぬ影響を及ぼすのならば、積極的に破壊することもやぶさかではない。それこそ』

 戦略ユニットは、傲慢に言い切っていた。

『お前の力を借りることも、やぶさかではない』

『冗談じゃない!』

 戦闘ユニットは、それを退けていた。

 彼の中の怨恨が、それを拒ませていた。

『お前達の兵器を破壊するのに、お前の力なんて必要ない!』

『やれやれ、戦闘ユニットに学習能力は無いのか? 先日の結果を見て良くも言える』

『学習プログラムを作成して、練習してもらう。そうすれば……』

『死ぬだろうな』

「うん、死ぬな」

 誠志は素直に言い切っていた。

 これがリセットの効くゲームなら、縛りプレイとしてそういうことにも挑戦しただろう。

 だが、死なないとしてもケガをすれば、それで人生に影響が出てしまう。

 それを思えば、防御手段を生み出せるゴーシェと『手を切る』などあり得ない。

「レヒテ、気持ちはわかる、とは言わないけどさ……俺の命なんだからもうちょっと大切に思ってくれ」

『~~わかってるさ!』

 激しく、右手のバツ印が輝いていた。誠志の眼が痛いくらいに光っている。

『どのみち、装着者である君がこの文明を、この社会を、人々を守るために戦うのなら、ゴーシェの真意がどうであれ無害なんだろうさ!』

 誠志の言うことは分かる。

 戦闘ユニットの理屈から言って、打てる手を制限する意味がない。

 同じ文明によって作られた兵器だからこそ、ゴーシェが嘘を言っていないことはよくわかる。

 だが、それでも納得できない。自分や以前の装着者が、どうしても守りたかったものを、手前勝手な理由で踏みにじった、自分勝手な理由で無価値とした、あの科学者とその被造物を認めることができない。

『だけど、僕は嫌だ。やはりお前が許せない! お前の製作者も、お前自身も許せない!』

『非合理的だな、お前も私も、この文明を守るために装着者に協力する。それだけだ』

 宇宙に行きたかった。

 だから文明を滅ぼした。

 そんな理屈が通じるものか。

 行きたければ宇宙でも地獄でも、勝手に行けばよかったのだ。

 何故文明を巻き込んだというのか。

「レヒテ……」

『……ごめん、君にこんなことを言っても仕方がないことだ。でも、僕は許容できないよ、ゴーシェの事を、破壊したくてたまらない』

 誠志は困り果てていた。

 レヒテの熱い思いは、それこそヒーローのものだからだ。

 彼は先代の装着者と共に戦い抜き、失意のうちに命を落とした。

 そして悠久の時を越えて復活し、守りたかったものが何一つ残っていない世界で、世界の破壊者と同僚になってしまった。

 その心中は、察するに余りある。

 正義と悪が、非常事態に対して過去の確執を越えて手を組む。それもまた、よくある黄道のストーリーだ。

 だが、それはそんな簡単な話ではないようだった。

 少なくとも、レヒテは多くの物を失いすぎており、それはもう取り返しがつかない。

 そんな状況で、憎い相手を破壊することもできない。

 それは、どれだけ辛いだろうか。

 安易に昔の事は水に流してくれ、とは言えなかった。

『気にするな、装着者。人工知能にとって感情などバグの様な物だ』

 酷薄に、本当に手を組む気があるのか、という発言をするゴーシェ。

 しかし、その無機質な言葉には真実も含まれていた。

 即ち、感情で判断を誤る道具など、使用者にとっては邪魔でしかないということだ。

『レヒテは再三自分で言っていることだったがな、結局のところ一番尊重されるべきはお前の意思だ。我ら人工知能は提案はしても、それをお前に強いる権利はない。お前の選択はあくまでもお前の決めるべきことだ。にもかかわらず、論理的ではない理由で戦力を減らす。これをバグと言わずしてなんという』

 まあ、そうかもしれない。

 少なくとも、誠志が一番重んじるべきは自分の命で、それをあえて危険にさらそうとしているレヒテは確かに壊れている。

 だが、それでも誠志には彼を咎めることはできなかった。

 それは、レヒテがまぶしいほどに英雄に見えたからだ。

「ゴーシェ、少し……」

 言いすぎだ、と言おうとしたところで、左手で作っていた全自動メイドロボ製造機が完成した。

『少し、なんだ』

「……うん、少しこれを起動させるのは延期させようかな? 明日にでも動かすよ、うん」

『お前がそれでいいなら、我もかまわん。最初の質問に戻るが、我としてはお前が我らを使って文明に悪影響を及ぼすことを恐れているからな。それを未然に防ぐために、お前が堕落しない程度には助力は惜しまないつもりだ』

 自分が勇者という尊敬すべき精神性の持ち主から、とことん遠いのだと理解しつつ、誠志はメイドロボを未だに諦めきれずにいた。

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