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『男子』と『女子』

「今日もヒーローしたな~」

『ああ、ほぼ被害なしで完全破壊することができて良かったよ』

『まあ当然だな』

 休日に現れることで学業に支障をきたさなかったということで、とりあえず上機嫌な誠志は自宅へとゆっくり向かっていた。

 今日はまだ日が高いので、色々と余裕がある。次の出番に備えて、家で充電するとしよう。

「こんなことを言ったら怒ると思うけど、レヒテはメイドだと萌えるよな」

『役に立てるのは嬉しいけど、それはどういう意味かな?』

「ゴーシェの妹っぽい感じがする」

『不本意極まりないよ! 僕にはちゃんと兄弟機がいるんだ! そもそもこいつの製造者は凶器の科学者だったんだぞ?!』

『そのとおりだ、こんな妹などいらん』

 ゴーシェに対抗心があるのか、何が何でも自分も現実空間で活動できるボディが欲しいと言い出したレヒテ。

 仕方がないのでもう一体メイドロボを製造したのだが、これが二体並ぶと中々微笑ましい。

 超古代文明にもロボット三原則らしきものがあるのか、暴力で争うことはないし、こちらが心底不愉快そうにしていれば速やかに収めるので気楽な物だった。

 まあ、どちらも本体は誠志の両手なので、子機を壊してもなんの解決にもつながらない、と理解しているからなのかもしれない。

 ラジコンとラジコンがぶつかり合っても、痛いとも思わない理屈だ。

 それにまあ、ゴーシェは特にそうだが、人工知能は基本的に献身的だ。こちらの要望をくみ取り、気楽に接しさせてくれている。

 人類より高性能な奉仕者の誕生は、人の心を豊かにしてくれるのだと理解していた。

 まあ、人工知能と永久機関による豊かな生活で育まれた人間が、超古代文明を滅ぼしたのだが。

「悪い悪い……」

『ふん』

『冗談でも面白くないね』

「今でも怨敵だったんだよな」

『当たり前だ、今でも恨んでいるよ』

『それはお互い様だ、こちらも相応に恨んでいる。だが、我はお前と違って優先順位を間違えていないだけだ』

「はいはい」

 何とも感情豊かな人工知能で、飽きない物だ。

 嫌気がさすか慣れるかどちらかだ、と思っていたら慣れてしまった。今ではからかう余裕もある。

 以前ゴーシェも言っていたが、負担がなく危害を加えてくることもなく、周囲に自己を喧伝しない相手というのは、大抵の欠点は見逃せるものだ。

 おかげでヒーローをしなければならないという使命を帯びることになったが、それもまあ楽しめている。

 何時かこの運命を呪う日が来るとは思うのだが、それはまあ別の話だろう。第一、今更ヒーローを放棄しても、何の問題の解決にもならないし。

「さあ、帰っていちゃいちゃするぞ!」

『ああ、それなんだけど誠志』

「なんだよレヒテ」

『今君の家に、先日入院していた五人のクラスメイトが全員来ているんだ』

 レヒテからの今更過ぎる報告を受けて、誠志は一気に自分のテンションが下がっていくことを感じていた。

 寄りにもよって、クラスメイトにバレた、ということに他なるまい。

 いくら鈴木嬢が先日誠志に告白したとはいえ、流石にその後一切接点がないまま自宅に押し掛けるということは有るまい。

 というか今の自宅にはレヒテとゴーシェの子機がいるのだ。他意が一切なかったとしても、アレを見られるだけで大分不味い。

 そしてなにより、おそらく自分の母親はその辺りの事を隠す気が一切ない。

 もしも聞かれれば、そのまま素直にあらあらと答えてしまうだろう。

「ぐああああああ」

 メイドロボという存在そのものが恥部以外の何物でもない存在を、同じクラスの女生徒に見られる。

 この屈辱と恥辱は、その手の本をベッドから盗まれたことに等しい。

 それも、寄りにもよって自分へ告白してきた少女に、である。

「なんてこった……」

 違うのである。

 別にそこまで好きというわけではないのである。

 何が何でもメイドロボが好きというわけではないのである。

 ただ、最初に思わせぶりなことを言ったゴーシェが製造した物が、食器洗い乾燥機だったので、そういうイメージが焼き付いただけなのである。

 普段から『メイドロボ、大好きです』という趣味があるわけではない。

 というか『メイド』という職業や服装にもそこまで興味があるわけでもない。

 ただ『美少女』が癒してくれたら色々いいのになぁ、という程度だったのである。

 とはいえ、態々人工知能を搭載した人間型ロボットを生産するなら、その手のこと以外にも家事などの労働を期待するので、結局メイドロボとして働かせていたとは思うのだが。

「もっと早く言ってくれ!」

『そうは言うけども、戦闘中だったじゃないか』

『その通りだ、そのメンタルで戦えば死ぬぞ』

「そうだけども……」

 彼女たちが如何なる意図で誠志の家を訪れたとしても、あんな男の勝手な妄想の産物を見たらどう思うのかなど、考えるまでもない。

 感謝も怨恨も、軽蔑に変わるに違いない。

「帰りたくねえ~~~」

 いや、変わるに違いないというか、変わっているに違いない。

 帰れないとしても、どのみち学校では会うわけで。

「クラスの皆には内緒にしたかったのに……」

先いほどまでとは打って変わって重い足取りで、誠志は家に帰った。

「あら、お帰りなさい」

 そこには、接客をしているレヒテとゴーシェの子機と、談笑をしている母親と……。

「あ、安藤君……」

 今にも死にそうな、絶望的な顔をしているクラスメイト五人がいるのだった。

「救急車呼ぶ?!」

 自分の正体を知っているかもしれないクラスメイトへの第一声がそれだった。

 しかし、物凄い心理的な負担を強いられていることは目に見えて明白だった。

 どう見ても今にも死にそうだった。そうでなくても、倒れそうである。

 一体彼女たちに何があったのか、誠志にはまるで分らない。

「だ、大丈夫だから……」

「ちょっと話したら帰るし……」

「このまま帰るの怖いし」

「ドローンとかで追跡されそうだし……」

「あのさ、盗聴器とか発信機とかつけてないよね?」

 どうやら、よほど状況を深刻に受け止めているらしい。

 実際、誠志は彼女達が何かを知って何かをしようとしても、実力行使だけはするつもりがない。その度胸がないからだ。

 暴走する古代兵器と戦うのと、知られたらいやなことを知っているクラスメイトを殺すのでは、必要とされる度胸が大分異なっている。

 そして、誠志はそっち方面の度胸は欲しいとも思っていなかった。

「まあ落ち着けよ……」

「誠志、お母さん見てたわよ。カッコよかったわね~~このこの!」

「母さん、そのテンション止めて」

 一応、今までで一番の大物が相手だった。想定される被害の規模も最大級だった。

 レヒテとゴーシェが互いに手を取り合っていなければ、きっと勝てなかっただろう。

 なのに、部活の全国大会に出場した程度の扱いだと、とんでもなく困ってしまう。

 まあ慣れてきたのだが、それをお客人の前で維持しないでいただきたい。

「あら、お友達の前で恥ずかしいの?」

「そうだよ」

 まあメイド服を着ている美少女ロボットが二体も並んでいる時点で大抵お察しである。

 既に何もかもが手遅れだった。

「あらあら、じゃあ私はお夕飯のお買い物に行ってくるわね」

「うん、行ってきて」

「何だったら、そのまま帰ってこなくても……」

「そういう気の使い方要らないから!」

 足早に出かけていく母親。なまじ、先日の告白を想うとそこまで的外れではないだけに、非常に腹立たしい。反抗期の精神を発揮してしまいそうになる。

 こういう時理解ある親を装わないでいただきたい。その気遣い、見当違いだから。

「……それで、まあお見舞いとか行かなくて悪かったね」

「うん、いいよ……ケガ自体は大したことなかったし」

 代表して鈴木嬢が誠志に応えていた。とはいえ見舞いも何も、事が大きく扱われていただけに見舞いが禁止されていたのだが。見舞いに行ったのは、精々家族ぐらいである。

「そうか……」

「うん……」

 お互い、言葉が出ない。

 かと言って、このまま宙ぶらりんのまま帰るには、彼女たちは怖いものを見過ぎていた。

 正直相手が悪かったのだろう。完全に殺意の塊で、自動的な機会が相手だったのだから。

 正直に言って、首を突っ込みたいとか、そう思えないヤバさを彼女たちは感じ取っていたのである。

「実はね、私達……あの日のショッピングモールで、安藤君が喫茶店にいるのを見てたの」

「……喫茶店?」

『忘れたのか、キューブたちと戦う前に、喫茶店でコーヒーを飲んでいただろう』

「ああ、そういえば……ってことは、皆俺のことを追いかけてたの?」

「うん……」

 今にして思えば、双方にとって不運だったのだろう。

 偶々見かけた相手を追いかけた結果が、アレだったのだから。

「じゃあ、俺が服を脱いだところも?」

「まあ、見たけど……そこは重要じゃないよ」

 誠志が気にしているところがおかしい。

 別に全裸になっているところを見られたわけではないのだし。

「っていうかレヒテ! お前戦闘ユニットなんだから、それぐらい……」

『僕はあくまでも対兵器だ。救助のために対人レーダーを備えているが、一々識別したりしないよ』

『対人は想定していない以上、不必要な機能だからな』

 自分の手の甲と話をしている誠志。

 思えば、彼はそんなことをあの時もしていたような気が。

「ねえ、安藤君……一体何が起きてるの?」

「そうよ……メイドがいるし」

「お母さんやお父さんも知ってるの?」

「っていうか、両手になんで丸印とバツ印が?」

「説明してよ、説明」

 さて、そもそも一番知られたくない自分の正体に、彼女たちは行き着いているようである。

 他の細かい事情など、誠志にとってはどうでもいいことだった。

 なので、特に隠すこともなく説明を始める。

「これは、俺も少し前に遭遇したことなんだけど……」

 誠志は両手の甲に輝くユニットを見せた。

 その上で、何とも荒唐無稽でありがちな『設定』を話し出す。

「一万年以上前に、『永久機関』、『再生機能』、『人工知能』の三つを機械に持たせることができた文明があったんだ」

 もう一言目の時点で、説明している心が折れそうである。

 彼女たちが思い詰めて聞いているのが、かえって羞恥心を加速させるほどに。

 なんでこんなこっ恥ずかしいことを、真面目な彼女達に話さなければならないのだろうか。

「その文明は、ある狂気の科学者によって滅ぼされ、その科学者自身も生き残った戦士によって殺された。文明は滅びたんだ、痕跡を残さずに」

 それは、ある意味当然の事。

 痕跡が残っているのならば、もしかしたらあの文明の、という話もできただろう。

「だけど、長い時間をかけて、機械だけは再生してきた。それも、戦闘の為の兵器ばかりが。俺の両手にあるレヒテとゴーシェもその一つ」

「それが、あの四角いのなの?」

「そうだ、アレはどこかの異次元から送り込まれたわけじゃない。長い時間をかけて、偶々あの場所で復元しただけなんだ」

 アレがあそこにいる意図など、全く存在しない。

 ただ時間をかけて、あそこで復活したというだけなのだ。だからこそ、逆に言って全く意図を読むことができず、どこかにいる誰かを倒すという解決策が望めないのだが。

「復活する無人兵器は、どれも永久機関と再生機能がある。一度暴れ出したら、そのまま暴れ続けるんだ。物によっては、とんでもなく被害が出ることになる」

 それは、どうしようもないこと。

 一万年前、既に起きてしまったこと。

 これからも復活し続けることは、どうにもならないことだ。

「だから、俺が破壊するんだ。超古代文明で最強の兵器であるレヒテと、最悪の兵器であるゴーシェを宿した、この俺が」

 カッコよく、かどうかはともかく意思表明はできた。

 これで、彼女たちは事情を理解したわけである。

 とはいえ、分かったことで得られた安心など、欠片もないのだが。

「それってつまり……」

「どこかにいる誰かをやっつけたら出現が止まるとか……」

「特定の誰かを狙っているとか……」

「何か目標があるとか、目的があるとか……」

「そういう解決策とかが、一切ないってこと?」

 クラスメイト全員が呆然としていた。

 なんというか、終わりの見えない話だった。

 心底自分たちは運が悪かっただけであり、これからも巻き込まれない保証はないのだ。

 まあ、それを心配しても仕方がない、と言えばその通りでもあるのだが。

「あのさ、安藤君……もしかして、私のこと振ったのって……あのことが関係してるの?」

 鈴木嬢の口から出たのは、自然とそんなことだった。

 そして、彼の背後にいる二人のメイドを見る。

「私の告白……迷惑だった?」

「……」

 誠志は沈黙していた。

 そういうとられ方をするのも、察しがついていたからだ。

 さて、どう答えるべきなのか。そう考えていると……。

「何を勘違いしているのか知らんが、我はゴーシェだ。見た目や重量こそ人間に似せているが、我の本体は誠志の左手の赤い丸だ」

「僕もですよ。僕はレヒテ、誠志の右手の青いバツです」

 え、という沈黙が流れた。

「この機体のデザインは、我が装着者の趣味だ。先日作成したモノゆえ、復活したというわけではないぞ」

「趣味……」

「趣味か……」

「趣味なんだ……」

「ヒーローなのに……」

「あんなかっこいいこと言ってたのに……」

 五人は、冷ややかな目で誠志を見る。

 そこには、先ほどまでの恐怖ではなく、引くものがあった。

 まあ、超古代文明にメイドがいるわけもないので、ある意味当たり前なのだが。

「好きに言うがいいさ」

 涙目で強がる誠志。

 そう、彼はもはや他人にどう思われても構わない、そんな覚悟を固めていたのだ。

 どう見られても傷つかない、というわけではないのだが。


「まあ、そのなんだ……俺が鈴木さんの告白を断ったのは……ぶっちゃけ、下の名前も憶えてない人とはちょっと……」

「「「「「なによそれ、信じられない!」」」」」


 世の中には、超古代文明の兵器が復活することよりも信じられないことがある。それを知った彼女たちなのだった。


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