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『困惑』と『日常』

『やはり日本は一味違うな!』

『俺は知っていた、日本には既にヒーローがいたと』

『それで、友好国に輸出されるのは何時かな?』

『彼は忍者だ。煙幕を使ったらしいしね』

『それで、彼のフィギュアはどこが版権だい?』

『う~~ん、日本へ旅行に行く理由が増えてしまったな』

『彼にはこれから過酷な運命が待つだろう。アニメ化、ゲーム化、映画化とね』

『くだらない、こんなもの作り物に決まっている!』

『彼の乗っているバイクはクールだ。ようやく空飛ぶようになったんだな』

『駄目じゃないか、日本のヒーローなんだからちゃんと名乗って見栄を切らないと!』

『彼は本物のヒーローだね。なぜかって? ちゃんと女の子を守ったからさ』


 誠志の三度目の戦いは、必然多くの衆目を集めることになっていた。

 駅周辺の建物からスマホなどで撮影、録画され、それが大量にネット上へ散乱したのである。

 心無い意見も多く寄せられたが、諸外国からの反応では面白半分ではあるが賞賛の声が上がっていた。

 特に正義が大好きな国では、少女たちを守った彼の行動を評価する声が大きかったりもする。

 そして、彼自身よりもむしろ、彼が何と戦っていたのかをこそ議論としていた。

 あの無人兵器は何なのか。他にも存在し、他の国にも現れるのか。どこの誰が作り、なぜ日本のあの場所に現れたのか。議論は尽きず、答えは出なかった。

『ムーとかアトランティスとか、そういう超古代文明の兵器なんじゃないの?』

 という真実を指摘したコメントも存在したが、それは議論の対象外となっていた。



 さて、誠志に救助された女子五人もまた時の人である。

 なにせ、正体不明のまま去っていった誠志はともかく、彼女たちは少々不名誉な姿を含めてさらされてしまった。

 世間が彼女達に、誠志の正体を訪ねるのは当たり前だった。

 衆目は彼女達へ集まり、しかし何も知らないことを分かっても、一時彼女たちは拘束されていた。

 少なくとも、精神的に圧迫感を感じ、苦痛を受けていたことは事実である。

 そんな彼女達が解放されたのは、彼女たちが入院している間も何度かではあるが兵器が復活し、それを誠志が破壊するという活躍が報道され、結果彼女達が二度目の救助者という扱いになってしまったからだろう。

「大変だったね……」

「うん……」

「ウチの親なんて、ぶっちゃけ利用して金もうけを考えてたんだよ?」

「ああ、本出すとか?」

「そうそう」

 彼女たちは何も語らなかったし、何も語れなかった。

 それは周囲への反発もさることながら、そもそも多くの事があいまいだったからだ。

 余りにも多くの事が急で、彼女たちは訳が分からなくなっていた。

 一度、一つの場所に集まったとき、落ち着いて話ができるようになった時、彼女たちが飽きられて次の事に大衆の興味が映ったとき。

 彼女たちは自然と、安藤誠志の家を訪れていた。

「本にするとか言われてもさぁ……」

「ああ、でもさ。あの時の動画を撮影した奴、動画サイトに投稿したら凄い再生数が出たんだって!」

「え、じゃあそいつが大儲け?」

「そうなの、だから私もって……まだ諦めてないんだよ」

「……ぶっちゃけ、私達最初の被害者じゃないしね」

「そうなんだよ、テレビのスタッフが最初だって! なのにさ、いいからいう通りにしなさいって……」

「正直幻滅だよね。命からがら帰ってきたら、両親からカネの話されるとさ」

「そうだよね、それに……」

 さて、安藤誠志の家の前である。

 彼女たちは、混乱する前の記憶をたどって、全員で彼の家に赴いていた。

 自分達を助けてくれたのは、彼ではないか。そう憶えていた彼女たちは、意を決してドアをノックしていた。

「すみません」

「はいはい……あら、どうしたのかしら?」

「私達、実は、誠志君のクラスメイトで……」

 言うまでもないが、彼女達は誠志とほぼ接点を持っていなかった。

 こうして家を訪れたのも、今日が初めてである。よって、彼の母親の顔も、おそらく見るのは初めてだ。

 授業参観や入学式、或いは卒業式や運動会で見たことは有るかもしれないが、それは見ただけで会ったことはない。

 少なくとも、相手はきょとんとして、何とも言えない顔をしていた。

「その……誠志君はいますか?」

「~~あらあら、誠志はいないけど、もう少ししたら帰ってくると思うわ。ちょっと家に入って、待ってくれる?」

 どういう受け取り方をしたのかわからないが、誠志の母親は嬉しそうに五人の乙女を招き入れた。

 はじめて現れた五人の乙女。まさか全員が自分の息子にほれ込んで、そのまま押しかけ女房をしに来たなどとは、流石に思うまい。

 果たしてこの母親は、何をどこからどこまで知っているのか、どこからどこまで踏み込んでいいのか、彼女たちはまるで分らなかった。

「おじゃまします」

 少なからず、緊張する。

 いくつか確かなことがあるとすれば、誠志は明らかに強大な力を持っている。

 それは『人間』を『五人』、証拠も残さずに消せるだけの力だ。殺人には余りある力だ。

 ありえないとは思うが、彼が自分達を殺しても不思議ではない。

 少なくとも、不自然には思えないのだ。

 何故なら、誠志はアレが出現する前には既に行動をしていた。予兆を感じ取って、現地へ赴いていた。それも、大慌てで。

 それは、彼女達しか知らないことでもある。

 もしかしたら、それはショッピングモールの監視カメラに残っていたかもしれないが……少なくとも、それは話題には上がらなかった。

「あらあら、あの子も隅に置けないわねえ~~」

 とにかく、彼は名乗り出ていない。それは確かだ。少なくとも、世間と協力的ではない。

 それがどの程度の秘密意識なのか、彼女達にはわからない。

 正体に至った自分達に、口止めを頼むのか、それとも脅すのか。或いは、消すのか。

 まるで分らない。

 分からないからこそ、ここに来たのかもしれない。少なくとも彼は、こうして自分たちが訪れることを喜んではいないだろう。

 あるいは、望んでいないというべきなのかもしれないが。

「レヒテ君、ゴーシェ君、お客様よ」

「ほう、何人だ」

「僕たちが顔を見せてもいいんですか?」

「ええ、お願い」

 度肝を抜かれる、という表現は不適切だった。

 一軒家ではあるが、豪邸とは程遠い平屋で、リビングに行くとメイド服を着た少女が二人も現れた。

それも、髪の色が赤と青。どう考えても現実離れしている。

 これが彼の事情と直結していることは、余りにも明白だった。

「びっくりした?」

「え、ええ……」

 五人はあっけに取られていた。

 双子のように顔が酷似していて、おまけに対であるかのように赤と青の髪。

 そんな二人が、さも当然のようにいるのだから。

「二人とも働き者でね……私の仕事なんて、外に買い物に行くぐらいなの」

「ふん、この家庭の家事など、我一人で十分だというのにな」

「お前だけに任せられるか!」

「その機体を作ったの我だ。忘れたわけではあるまい、戦闘ユニット」

「……しつこいぞ!」

 仲良く言い争う、二人のメイド。

 それは何とも、どこかで見たことがあるような光景だった。

「壊すだけが取り柄の貴様に、人類への奉仕はふさわしくあるまい」

 メイドのくせにやたら傲慢な物言いの赤い髪のメイド。

「僕の存在意義こそ、真に人類への奉仕だ! お前こそふさわしくない!」

 一人称が僕の、気の荒い青い髪のメイド。

 どちらも、一般家庭というか日本というか、地球にはあり得ない光景だった。

「あらあら、でも確かに、二人いてもお仕事が無いのよね~~ぜいたくな悩みだわ」

「ふん、だそうだぞ。お前は余計だそうだ」

「ならお前を破壊する、それで問題が解決する!」

 どうやら、どちらが仕事をより多くこなすかで揉めているらしい。

 しかし、確かに一階建て平屋で家族が三人なら、メイドが二人も必要ということは有るまい。

 そもそも、彼女達二人がこの家に来たのは最近の様で、それまでは母親一人で家事をしていたのであろうし。

 確かに、二人は余計だった。

 その二人が、けっして暴力に訴えることなく大皿にお菓子を並べ、ジュースをコップに入れて準備しているところは、何とも不思議だったが。

 とりあえず、彼女たちがデカい武器を取り出して、それに巻き込まれて……ということはなさそうである。

 まあ、そんなメイドが実在したら、即刻クビだろうが。そもそも、なんで二人もいるのか、不必要なまでに多いことが認められている上で、なぜ相争うのか。

 それが、まるで分らない。

「あ、あの子達は」

「ほほう」

「あの子達はね、誠志のクラスメイトなのよ」

 五人を椅子に座らせて、紹介する誠志の母親。

 そんな彼女達を見て、メイドたちは明らかな反応をする。

「誠志が助けた子達じゃないか」

「間違いないな」

「あら、そうなの?」

 びくり、と硬直する。

 それはつまり、少なくとも目の前にいる三人は、誠志が戦っていることを知っているらしい。

 ことり、と置かれたジュースやお菓子も、毒でも入っているのではないかと疑ってしまう。

 考えすぎだということは分かっているのだが、やはり怖いものは怖いわけで……。

「あら、若い子だからクッキーとかジュースの方がいいかと思ったけど……炭酸の方がよかったかしら? それともお茶とか和菓子とか」

「お茶はともかく、和菓子は無いぞ」

「炭酸もないですね」

 一向に誰も手を付けないので、気に召さないかと思った母親は、彼女たちが目の前のもてなしが気に入らないのかと思ってしまった。

 確かに果汁百パーセントよりは炭酸飲料の方が好まれたかもしれないし、クッキーよりはスナック菓子の方が喜ばれた可能性はある。

 だが、両方を並べればどちらか、という程度で果汁百パーセントの飲料やクッキーも、そう嫌うわけではない。

「じゃあ買ってこようかしら。お留守番よろしくね」

「承知した」

「わかりました」

 しかし、誰も無言で手を付けないのだから、それは拒まれていると感じるのは打倒である。少なくとも彼女はそう受け止めて、怒るのではなく申し訳なく思い、替えの物を買いに行こうとしていた。

 そして、それを見送るのは意外にもメイドだった。

 いや、意外でもないのだろう。だって、こんなのが道を歩いてたら目立つし。

「い、いいえ! いただきます!」

「私、クッキー大好き!」

「ちょっとダイエット中だったんで!」

「やっぱジュースが最高だよね!」

「気を遣わせてすみません!」

 あわてて食べだす五人。

 言うまでもないが、見るからに奇天烈で不自然な存在と、一緒にされたまま取り残されたくないのである。

 あらそう? と買いに行くのをやめた母親は、そのまま椅子に座った。

 その彼女の前で、何とか食べていく五人。

 乾いた喉に、濃縮還元の甘さは少々負担だった。

 この際、冷えた麦茶の方がよかったのかもしれないと、少々後悔してもいる。

 その上で、目の前のメイドたちから目が離せなかった。

 果たして彼女たちは、誠志と如何なる関係があるのかと。

「それにしても……誠志が助けたってことは、入院していたんでしょう? レヒテ君は傷が残らない程度のケガだって言ってたけど……」

「あ、はい。少しまだ残ってますけど、その内消えるって……」

 軽度のやけど、早い救急車の到着、学生という若い体。

 それによって、幸いにも彼女達の玉の肌にはさほどの傷も残っておらず、その内消えるということだった。

「良かったわね~~若いのにお肌に傷が残ったら、水着とか着れないものね」

「え、ええ……」

「でも、どっちかっていうと、ねえ」

「うん、マスコミの連中とかうるさくて……」

「後お母さんとか」

「殺人ロボットよりも怖かったし……」

 世間の風は冷たいと、彼女たちは知っていた。

 それにさらされた彼女達が理解したのは、世間から悪者呼ばわりされることが多い警察や病院関係者、学校がきっちりと仕事をしてくれて守ってくれたこと。

 マスコミや無関係の人たち、家族が割と薄情だったことだった。

「お母さん? 貴女のお母さんがどうしたの?」

「なんていうか……夢見ちゃったんですよ。テレビで、動画サイトで投稿された映像が凄い再生数で、とんでもなく広告費が手に入ったとか」

「本にすれば絶対売れるって……売れないっての。本に書くほど、中身のある事なんて書けないし」

「だいたい、私達だけでも五人いるのに、その内の一人でしかない私が本にするとか……」

「体験談本にするなら、母さんが血相変えて金儲けしようって言ったの書くよって言っちゃったし」

 話し始めて空気がほぐれたのか、何とか愚痴を言うことができてきた。こういうことは当事者ではなく関係者ぐらいが一番楽しめるのであって、それもじき飽きて、ろくに思い出にもならない、ということを彼女たちは学んでいた。

 まあ正直に言って、痛い眼や怖い眼に有ったのに損をするばかりで一切得をせず、しかし全く無関係の相手が得をした、というのは気分が悪いものがある。

 しかし、命あっての物種。誠志の母が言うように、損はしても失うものや残るものはなかった。それだけでも幸運だったと思うべきなのだろう。

「殺人ロボットだと?」

 一方で、どうでもいいことで腹を立てる輩もいた。

 赤い髪のメイドが、なんというか怒っていた。

 なぜ怒るのかわからないが、怒っていることだけは分かっていた。

「お前達、それでも文明人か? 何故アレを見て殺人ロボットだと思う?」

「え……だって、その、ビーム撃ってたし……」

「ほほう、ビームを撃てば殺人兵器だと? 思い上がりも甚だしいな、たかが対人兵器に、あそこまでの貫通力が必要だと?」

 キューブを殺人ロボットと呼んだ彼女は、精々『致死性兵器』程度の意味合いで殺人ロボットと呼称していた。

 しかし、赤い髪のメイドには不満な様だった。

「呆れたな、何時から人間はそこまで頑丈になったのだ?」

「え、だって、ビーム当たったら死ぬでしょ?」

「ビームを撃たねば殺せないと? アレは人間を殺すには不向きだ。個人を殺すには余計な物を壊しすぎるし、大勢を殺すには範囲が狭すぎるからな。それに、対人兵器ならなぜお前達を見逃していた? アレが人間を殺傷する目的で製造されていたならば、そのようなプログラミングはされまい」

 どうやら、赤いメイドとしてはあの兵器が『対人兵器』として扱われたことが不満な様だった。

 対戦車ミサイルや対物ライフルを殺人兵器、と呼んでいるに等しいのだろう。

 そういう、所謂オタク的な怒り方だった。

「す、すみません」

「まったく……よくわからない物を、知っている言葉で語ろうとするな」

「ごめんなさいね、ゴーシェ君は自分の造った兵器だから、思い入れがあるみたいなのよ」

「いいえ、私も良く知らないのに……」

 謝ろうとして、しかし彼女は固まった。

 今、誠志の母親はなんと言ったのだ?

 ゴーシェとか言う赤いメイドが、あの兵器を造ったといわなかったか?

 それはつまり、マッチポンプということなのか?

 だとすれば、それを知った自分たちは殺されるのではないか?

 怒るより先に危機感を感じた彼女たちは、また黙ってしまった。

 どいう状況なのか、まるで分らない。

「でもごめんなさいね、誠志は今で駆けているのよ」

 空気を読んでいるのかいないのか、誠志の母親は誠志の事を語り始めた。

 その眼は、消されているテレビに向けられている。

「貴女達、テレビ見たの?」

「み、みてないです!」

「これっぽっちも見てません!」

 慌てて応える彼女達。うっかり食べたお菓子やジュースに何か入っていたのではないかと、吐き気を憶えてもいた。

 もちろん、うっかり吐瀉すれば殺されかねないのだが。

「誠志は今ね、ちょっと田舎の方に行ってるの。そうでしょう、レヒテ君、ゴーシェ君」

「ああ、今は張り付いている」

「大丈夫です、復活と同時に破壊できます」

 誠志の母は、テレビをつけた。

 そこには、緊急生中継である山奥が映し出されていた。

 それを見て五人は仰天する。そこに存在している兵器は、自分達が襲われた兵器とは明らかに一線を画するものだったのだから。

「対都市破壊兵器、バトンだな。破城槌の様な物だと思っていい。再生が終わると同時に、近くの都市を目指して突進するだろう。そのように作ってある」

「昔は、アレを破壊するために何人もの精鋭が犠牲になりました」


【ご覧ください、この映像を! 月並みですが、これは映画ではありません!】

【およそ、電車や新幹線の形状をしており、それを一回りも二回りも大きくしたものです!】

【それが、この廃村で徐々に、徐々に姿を現しつつあります!】

【まるで空気中のチリが集まるように、じわじわと、その姿を現しています!】

【これは、先日のロボットと関係があるのでしょうか?】

【そして、ご覧ください!】

【先日の空飛ぶバイクにまたがった彼が……】

【彼が、既に待機しています!】


「バイクではない、小型ヘリコプターだ、馬鹿め」

「そんな指摘よりも、あんなものを作ったこと自体を悔いろ」

「ねえ、見てちょうだい。ウチの誠志がテレビに映ってるわぁ……カッコいいでしょう?」

 誠志の母親を見て、彼女たちはやや見惚れた。

 そこにいるのは、一点の曇りもなく自分の息子の雄姿を見守る、慈愛の母の目だったからだ。


【いったい彼は、何者なのでしょうか! あの兵器と、一体どのような関係があるのでしょうか!】

【我々取材班は、このまま彼に接近し、接触を試みようと思います!】

【パイロットさん、お願いします!】


 空中で止まっている小型ヘリコプターに乗り込んだ誠志。

 その彼に、報道陣の一角がメガホンとマイクを手にヘリで接近していく。

 明らかに危険だが、それでもアナウンサーもヘリのパイロットも、誰も止めようとしない。

 真実を明らかにする義務があるとでも思っているのか、危険だと思っていないのか、それとも好奇心ゆえなのか。

 報道としては正しくとも、航空機のパイロットとしては著しく間違っているが確実な接近に対して画面のヒーローはどう応じるのか。

 彼に助けられたクラスメイトも、他のテレビの前の視聴者同様に固唾をのんで見守っていた。

 そして……。

 彼は赤い手と青い手を動かして、その意思を伝え始めた。


【これは……手話です! 間違いありません、彼は手話を用いて、我々に意思を伝えようとしています!】

【正体を明かさない彼は、一体どのような意図を我々に、そして視聴者の方にお伝えしようとしているのでしょうか!】

【皆さん! 私もアナウンサーです、手話はある程度勉強しています!】

【彼が繰り返している手話を確認して、それをお伝えします!】


【テレビを、見るときは!】

【部屋を……明るくして、離れて……視聴しよう……】

【その、悪ふざけではありません。彼は、手話で、そう伝えています……】

【彼は繰り返し、手話で、テレビを見るときの作法を、その、我々に伝えています……】


「ギャグのつもりだったらしいぞ」

「ああ、僕でもわかる。この状況では明らかにブラックジョークだね」

「まあ、あの子ったら」

 うふふふ、と微笑ましそうに笑う母親だが、確かに渾身のギャグは滑っていた。

 ある意味、過熱している報道陣へのアピールだったのかもしれないが、どう考えても滑っている。見ているこちらは面白くない。

「誰も笑っていないことを伝えたら、落ち込んでいるぞ」

「一応、お母さんが微笑んでいることは伝えました」

 まるで、今も彼の傍らにいるかのように、レヒテとゴーシェは語る。

 それが嘘とは思えない。だって、画面の向こうの彼も落ち込んでいるようだったから。

 というか、ギャグを失敗したことを恥っているようでもあった。

 じゃあしなきゃよかったのに……。

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