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「……なに生暖かい目であたしを見てんのよ。キモいんですケドー」
「いやいや。なんでも。話を戻すけど、まあ、なんだ。メンツが一人足りないようで」
「そ。そこで、あんたの出番よ」
満を持しての登場。でも嫌な予感しかしない。
「確か、あんたも上級職だったじゃない? いったい何なのかは知らないけど。っていうか、何なのよ。教えなさいよ」
「前にも言ったろ。絶対やだ」
俺が手でバッテンを作ると、シャノは頬を膨らませる。
「……ふん。まあ、いいわ。あんたが何なのか知らないけれど、あんたが上級職だってことは変わりないもの。だから、あんたもあたしと一緒に【デブリス遺跡大迷宮】に行くの」
「なるほどね。ようするに、だぜ。俺は数合わせなわけだろ」
「ふふん、そうよ」
俺はため息を吐く。ただの数合わせとして、この俺をダンジョンに連れていこうだなんて。俺のステータス画面で腐ってる【全ダンジョン踏破者】の称号が泣けるぜ。シャノはそれをどう捉えたのかニヤニヤと笑うと、急に上目遣いのぶりっ子表情でクネクネし始めた。
「あー、もしかしてー。もーしーかーしーてー、数合わせってとこにぃ、悲しくなっちゃってるんですかぁー?」
俺は再びため息を吐く。今度はあまりにも目の前のクソアマの挙動がおぞましかったからだ。けれども、なんでかな。俺の気持ちはまったくシャノには伝わらず、彼女はお腹を抱えて笑い出す。
「あははっ、ほんと憐れっ! 男なんていくらでもよってくるこの完璧美少女であるシャノーラちゃんが? 下手したら、神さまでさえ惚れさせかねない美貌と身体を持つこのシャノーラちゃんが? あんたなんかを指名して引っ張ってくるわけないじゃない。あははっ、わけないじゃないっ! 思いあがるのもほどほどにしてほしいものねー。ほーんと、もう上級職だったら誰でもよかったのよ。あんたに声をかけたのは、たまたまよ。たまたま、あんたが上級職だったことを、あたしがちゃーんと思い出してあげたんじゃない。感謝してほしいわね。言っておきますケドー、わざわざ一人分の席を空けて、来てくれないと困るみたいな演出しようだなんて、これっぽちも思ってないんだから。ましてや、クエスト受けたのもあんたとまたダンジョンに潜るための口実にしただけだなんて思ってるんなら、まったくの見当違いってもんよ? だいたいねー。数合わせだったとしても、あたしと一緒にクエスト受けられることを素晴らしい光栄だと思ってほしいわねー。あんたの根暗童貞人生に今、一筋の眩い光が舞い降りた。それが、この、あ、た、し。なのよ?」
そこで彼女は言葉を切る。息継ぎせずに一気にまくし立てていたシャノは、胸に手を当てて息を整える。そして、ぷいとそっぽを向きながら、人差し指をくっつけたり離したりし始めた。
「……あの、さ。えっと、だから」
俺の方をチラチラと不安げに見ながらシャノは言葉を詰まらせている。しらばくして、彼女は上気させた頬を若干キレ気味に引きつらせると、俺をビシッと指摘した。
「ああもうっ、なんであたしがこんなことで恥ずかしがらなきゃなんないのよぉっ! それであんた、どうなのよっ! 行くのっ? 行かないのっ?」
どういうわけか、シャノは瞳を潤ませている。




