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ダンジョンガイドさんの仮想現実生活ログ  作者: まいなす
『第1話 ダンジョンガイドさんは迷った』
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8


 メイメイが真っ赤な顔で舌打ちしながら俺から離れると接客しにいった。残された俺はとりあえずルイルイを引き離して、カウンター奥の椅子の一つに彼女をちょこんと座らせる。こんなところ客にでも見られたら、この店ではセクハラがまかり通ってるって、変な噂がたちかねないからな。憲兵に捕まるのだけはごめんだ。


 俺は咳ばらいをして来客がどこの誰なのか、視線を入り口の方へ向けた。

 まあ、どーせ、街の連中の誰かだろうけどな。


「いらっしゃいま……あっ、あんたはっ。ちょっ、待てよっ」


 しかし、俺の予想は明後日の方向に裏切られることになる。

 接客用の声で応対したメイメイの、途中から何やら慌てた感じの声が聴こえたのだ。


「そこどいて。中を調べさせてもらうわよ」


 そして、もう一人。聞き覚えのありまくる声。

 まさか。俺はカウンターから、恐る恐る顔をのぞいて入り口の方を見やる。

 すると彼女と、ばっちり目があった。あってしまう。


「あ」


「あ」


「ああああああああああああああああああああああああっ!」


「うわああああああああああああああああああああああっ!」


 あんまりびっくりしたもんだから、彼女につられて幽霊でも見たかのような悲鳴をあげてしまった。


「み、み、見つけた……」


 ほほう。見つかっちゃったようである。


 そこには、ハーフヴァンプのすっげー可愛い女の子がいた。彼女はアッシュブロンドのロングヘアーに、不敵な笑みを浮かべる口元には犬歯がちょっと覗いている―――そんな感じで、これまたどっかで見覚えのありまくる容姿だった。まあ、さすがに丈の短い白いワンピースは新しくなっていたけど、俺があげた黒外套は未だに羽織っていた。


「探したわよ」


 ははあん。探されちゃっていたようである。

 会計カウンターの対面でぴたっと立ち止まり、ハーフヴァンプ少女は言った。


「まあ、あんたに色々と言いたいことあるけど、その前にっ!」


 ハーフヴァンプ少女はビシッと俺を指摘する。


「あんた、あたしに言うことあるでしょ。本当ならシャノーラちゃん、あんたみたいなヘンタイとお話しする義理なんてこれポッチもないんだけど、女神さまもビックリなあたしの温情でトクベツに許可してあげるわ。ほら、言ってごらんなさいよ。ちゃんとゼンブ聞き流したげるから」


 実際は俺の方が背が高いのに、こっちを見下ろすという高等テクニックを惜しげもなく使う彼女は満面の笑みである。言いたいこと。言いたいこと、ねえ。


「ひさしぶり。元気してた?」


 当たり障りのない言葉を俺は選ぶ。どうせ聞き流されちゃうようだしね。

 ところがどっこい、途端に不機嫌そうに半眼になるハーフヴァンプ少女。


「ちょっと、うわなにそれ。うっわー、なにそのフツーの言葉。全然ありえないんですケドー」


「聞き流すんじゃなかったのかよ」


「うっさいバカ。ここはあたしの足にすがりつきながら、可愛いあたしとまた出会えたことに、ありとあらゆる神さま仏さまに泣いて感謝するところでしょう? もしくは、この感動を十曲くらい吟遊詩人みたく恥ずかしいポエムにして歌ってもいいくらいでしょう?」


「その二択だったら迷わず後者を選ぶね、俺は」


「あらそ。ま、歌ったところで聴いたげないけど」


「聴かねーのかよ」


 今ちょっと作り始めていたのに。


「だいたいねぇ、あたしと再会できた今が、あんたの人生の幸福の絶頂ピークなんだからね? だから可愛いあたしとこれから先ずぅーっと一緒にいなきゃ、童貞のあんたの人生は下がってく一方よ? わかってる? ちょっとなに笑ってんのよ。むかつくわね」


「ぷっ、あはは」


 うーん、この。

 懐かしいクソアマ感に浸って噴き出したのだ。

 本当に目の前にいるこの子は、この前【インベルグの森】にて一晩をともに過ごした女の子であるということを確信する。すると何だか彼女と別れてから胸にずっとあったわだかまりが解凍されたのだった。なんぞこれ。


「ちょっと、ねえ。ねぇってば。黙ってないで、さっさと――――。さっ、さっさと、……うっ、うう、う」


 俺が自分の身体の不調に首を傾げている一方、ハーフヴァンプ少女は唐突に言葉を詰まらせて嗚咽し始める。なにゆえ。


「うわああああああああああああああああああああああああああああああああんっ!」


 そして、両目から滝のように涙を放出しながら大泣きし始めた。

 え、おい。いったい何が。とりあえず俺は彼女の頭を撫でてやる。

 しばらくして、彼女は落ち着いてきたのか、俺の手をパシンと払いのけた。

 それからハンカチを取り出してずびびーと鼻をかむと、そのまま鼻をスンスンとすすりつつ、両目をエグエグと擦って、再び俺と対峙する。


「えっと……」


「う、ううぅ、うっ、うわあああああああああああああああああああああんっ! ほんとにいるよおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ! ゆ、夢じゃないよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ! あたしがどんだけ必死にさがしたと思ってんのよおおおおおおおおおおおおおおおおおっ! あんたホントにばかよばかおおばかよおおおおおおおおおおおおおおおっ! うわあああああああああああああああああああああああああんっ!」


 なんだなんだなんだ。

 俺は玉ねぎかなにかか?

 再びハウリングし始めたハーフヴァンプ少女――――シャノの頭を、俺は撫でることしかなかった。


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