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伝えるべきことを手短に書き終える。
それにしても、圧し殺してたとはいえ、なんか終始メイメイから物凄いえろい声がでてましたな。前方を向いている彼女の顔はわからないが、耳もとまで赤くなって怒っていることだけはわかる。あとで罵詈雑言のフルコースを味合う羽目になりそうだ。
それからルイルイの方は見えてるのか見えてないのか(絶対に見えてないはずなのだが)、振り返ってにぱっと花開く笑顔を見せた。胸キュンした。
「なんだ? 俺に気でもあるのか? ええ?」
童貞を殺すたぐいの笑顔に胸を打っていると、たまたま俺の背後にいた痩せ型の頬傷男がニヤニヤしながら彼女に声をかけてきた。が、ルイルイはぷいっと前方へ顔を戻してソイツを全無視する。男は放送禁止用語を捲し立てて『あとで嫌というほどブチ込んでやらぁッ』と汚い捨て台詞を吐きながら作業に戻っていった。
危なかった。あまりにもムカついて殴りかかりそうになった。冷や汗を拭う。
まあ、なんにせよ。
二人とも肩の震えは止まっていた。
ならば、その信頼に応えなければならない。
さっそく取り掛かるか。まずはゴブリン顔から手枷の鍵を奪わねば。
俺はドッコイショーと立ち上がって伸びをする。どうすっかなー。ゴブリン顔はチャッチャカ動いている部下たちを眺めるのを飽きたのか、一人でインベントリから酒を取り出してレッツパーティーし始めていた。
うげー、どんなに強い酒を飲んでるんだ。ここまで臭いが漂ってくらあ。
いくら仮想現実だからリアルの身体に害はないとはいえ、こっちで刺激が強すぎることやっちゃうと、向こうでは何も感じられなくなるという所謂ASA廃人になりかねないのに。
本日にして何度目かの、あーやだやだ。
………………ん?
首を振っていた俺は、ふとした違和感を覚える。
気配が一人、増えている?
ここにいるのは俺と姉妹ズを含めて二十二人のはず。しかし、周囲百メートル程度の気配を探れる感知スキル(ランクA)の俺は、その範囲に二十三人いることを察知していた。