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「………………いたた」
トーストを齧るたびに痛覚に電流が走る。
おそらく俺の両の頬にはメイメイの手形がくっきりとまだ残っていることだろう。
隣で椅子の上にちょこんと三角座りしていたルイルイが、もきゅもきゅと口を動かしながらじっと俺の顔を眺めている。
あ、こら。
頬をつままないで、マジで痛いから。
「ふん。テメエがまだ生きていられるのはオレの温情だと思え」
対面に座るメイメイが、お行儀悪く肘をついてそっぽ向きながらトーストを口に運ぶ。
メイメイとルイルイはすでに寝間着から、それぞれのジョブに見合った装備に変わっている。【拳士】であるメイメイは、チューブトップ型のレザーアーマーにショートパンツという動きやすさを重視した格好。【治癒士】であるルイルイは、童貞を殺す服の上にフード付きの白いケープを羽織っていた。
そして、さっきまで二人とも寝ぐせのついた髪を下ろしていたが、今は綺麗にメイメイがツインテール、ルイルイがおさげになっている。それは、どちらもメイメイの手によるものだ。ルイルイの身の回りの世話は彼女が全て行っていた。
「っていうか、ルイちゃんや。俺の頬が痛がってるから、やめたげて」
いつの間にか俺の膝の上に向き合って座り、両頬をぎゅっとつまんでいたルイルイが首をかしげる。しばらくして、彼女は手をぽんと叩くと、両手で俺の顔を固定した。
え、なにを。ルイルイの鼻筋の通った童顔が近づいてくる。
ちゅっ。
彼女は俺の頬にキスして、さらにはぺろぺろと舐め始めた。
くすぐったい。俺に年下好きの気質はないが、妙に恥ずかしい。
や、やめろぉー。
慌ててメイメイがルイルイを俺から剥がしにかかる。
「ルイねぇさん、めっ! オイこらトーノ、テメェみじんこの分際でオレのルイねぇに何してんだ。今すぐ離れろや」
「いや、俺は何もしてないんだけど」
「黙れ。ルイねぇさん、ってば。こんなごみクズから早く、はーなーれーてーくーれー」
メイメイがテーブルを足場にしてルイルイの脇を持って引っ張るが、ルイルイは楽しくなってきたのか、きゃっきゃと笑いながら俺に抱き着いて離れない。
「いたい。いたいいたい。」
メイメイが俺の顔面を蹴り始める段階になって、ようやく飽きたのかルイルイがひょいと俺から離れた。それから彼女は、荒い息を吐く俺とメイメイを放って、ふらふらと店舗スペースの方へと消えていく。自由な子だよなー。本当に。
「ああっ、もう。顔貸せ」
「ん? ああ、ありがとう」
メイメイが俺の頬についたルイルイの唾液をハンカチでぬぐってくれた。そして彼女はため息を吐くとテーブルの上のお皿を片付け始める。その姿は、まんま母親。中学生にしてこの母性はやばいんじゃないだろうか。




