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よろけて倒れ込んできたハーフヴァンプ少女の身体を受け止める。
「どうしたのさ」
「…………足、くじいた。かも」
そうボソリと呟いた彼女の右足首あたりは、確かに少し青くなっていた。
すっげー、痛そう。
【ウッドテンタクル】から解放されて地面に落ちた拍子にでもやっちゃったのだろうか。
あちゃー。まいったな。
これはまた、面倒なことになった。
とりあえず、いったん彼女を座らせて、応急処置。
俺の持っていた包帯とその辺から適当な添え木を見繕って、グルグル巻きに固定する。
しかし、俺ができるのはここまでだ。
HPが減っていればアイテムで回復できる。【睡眠】【毒】などの状態異常でもアイテムで治せる。けれども、こと外傷に関してはアイテムで完治できない。治すには自己回復するのを待つか、聖職者や治癒士などが使う治癒系スキルが必要だ。
でも、それを使える人間はここにいない。
「歩けるか」
「……あぅ」
「無理っぽいな」
応急処置だけではやっぱり駄目なようで、ハーフヴァンプ少女は歩けそうにない。
仕方ない。
「ほらよ」
「…………いやよ」
おんぶしてやろうと背を向けてしゃがんだ俺を彼女は拒否する。
なんでだよ。
「抱っこ。お姫さま抱っこがいい」
「……あのねえ。俺にそんな筋力を期待するなって」
「むう、……ひ弱。虚弱。ヘボ。仕方ないわね。おんぶで我慢してあげるわよ」
ハーフヴァンプ少女の体重が背中にのる。よっこらせ、と俺が立ち上がると、彼女は俺の首に腕をまわし、自分の身体を俺の背中に密着させた。
「……うーん」
「なによ。まさか、重いなんて言ったらぶっころすわよ」
「いや、そういうわけじゃないよ。ただ、背中にとても気持ちいい柔らかい感触が」
「ばっ、ばかっ! なによヘンタイっ! こっ、これだからおんぶは嫌だったのよっ!」
背中で暴れ始めるハーフヴァンプ少女。
「まあまあ、いいじゃないか。ギブアンドテイクってことで。ここは一つ。よしなに」
「なっ、な、なにが、ギブアンドテイクよっ。……あんたのギブアンドギブじゃない」
「ま、そこは俺の下心にでも感謝してくれたらいいよ」
「……なにそれ。ばっかじゃないの」
俺が歩き始めると彼女は小さくため息を吐いた。
そしてしばらくすると、俺の背中に再び自分の身体を預けてくるのだった。




