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「何をするんだ。きったねーなー」
「ふ、ふん。あたしの鼻水は凡人のとは違って、ぜんぜん汚くないもん。むしろ尊いもん。だからあんたのそのみすぼらしい服で鼻かんであげたことに感謝しなさいよね」
「……調子が戻ってきたようだなオイ」
「そんなことより、あんた未成年だったのね。ヘンに達観してるとこあったから、てっきりキモデブおやじだと思ってたわ」
「達観してたら、みんなキモデブおやじなのか? 達観してても、キモくもなくデブでもなくおやじでもない人間は世の中たくさんいると思うぜ」
「うっさいわね。そんなことより、何歳なのよ」
「なんでそんなリアルの個人情報を言わなきゃなんねえんだよ」
「あんたがあたしより年下って可能性もあるからよ」
「年下だったらなんかあるのか?」
「これから、あんたをずっとパシリに使える大義名分になるわ」
地味にやだな。その体育会系のノリ。
「つーか、そういうあんたも未成年なんだな。いくつなんだよ」
「うわキモ。いくらあたしが可愛いからって、リアルの個人情報をそんな必死に聞き出そうとして。あんたもしかして出会い厨なわけ? シャノーラちゃんそういう人はお断りなんですケドー」
「……ああ、そうかい。だったら俺もそっくりその言葉をあんたに返して、自分の歳は言わないことにするよ」
「なっ、なによっ! せっかくあたしがあんたに興味持ってあげてんでしょっ! ふん。もういいわよ。教えたげるわよ。今年で十六よ。花も恥じらう女子高生よ。もう、なによ。あんたサイテーのヘンタイ出会い厨ね。これで満足?」
「あ、あれ? なんか俺があんたから無理やりリアル個人情報を聞き出したふうになってるんですけど?」
「うっさいばかっ! それで、あんたはいくつよ。これで年下じゃなかったらぶっころすわよ」
「……そんな理不尽な。まあいいや。えっと、確か俺の歳は――――――――あー、俺も今年で十六だな。うん」
生きてれば。
そう、生きてればの話。
「なーんだ。オナイじゃないか。つくづく合うねえ」
俺が笑うと、ハーフヴァンプ少女はジト目になる。
「なーにがオナイよ。さっきの変な間はなんなのよ。あんたもしかして、パシリになりたくないからって歳を誤魔化してるんじゃないでしょうね」
「誤魔化してなんかねーよ。ちょっと計算が難しかっただけだ。それにだいたい、あんただってそう言ってるけど、本当のところはどうだか確かめるすべはないし、わからねえだろ。お互い様じゃないか」
まあ、別に興味ないので確かめる必要もないのであるが。
俺が肩をすくめると、ハーフヴァンプ少女はムッとした表情になる。
「失礼ね。あたしは正真正銘ぴちぴちのJKよ」
「口では何とでも」
「……なによ。だったら、その、」
そこでハーフヴァンプ少女は言葉を切ると、しばらく視線を左右に揺らした。つづいて、何か意を決したように俺の目を見て言う。
「オフ会しましょうよ」
「…………はあ?」
オフ会。
つまり、現実世界で対面しようって話である。
なんだなんだ。どうしてそういう話に飛躍したの。
けど、まあ、なんにせよ返事は考えるまでもないが。




