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「それだけの、それだけのために。このシャノーラさまに、あんな。あんな恥ずかしい思いを、させ、させるなんて。うふふ、滅ぼしてやるわ。跡形もなく、駆逐してやる。あは」
「こえーよ。落ち着けよ。一つの種を絶滅させちゃうとドミノ倒し的にそのダンジョンの生態系が崩れちゃうだろ」
「ア?」
俺の指摘に、ハーフヴァンプ少女は顔を少し上げてギロリと睨んだ。やべー、やべーぞ。これ。彼女の殺伐とした表情はもはやホラーだ。
「そういえば、そういえば、思い、思い出したわよ。あたし。あんたに、み、みみ、みみみみみられたのよ、ねぇ? ウッドテンタクル滅する前に、あ、あん、あんたから、ままま、まずあんたからぶ、ぶぶ、ぶっころろろろ」
四つん這いでゆっくり近づいてくる彼女に恐怖を覚える俺である。
「ちょ、ちょい待ち。あんた壊れたラジオみたくなってる。あと、安心しろ。俺、見てないから」
「うそだッ! うそつきぃッ! あんたあたしの、あたしのっ、あのっ、うぅ、く、口に出して言えないようなところをぉっ、みっ、みみ、見たもんっ! だっ、誰にもっ、まだ見せたことなんてぇっ、なかったのにぃっ! だからぶっころしてやんだうわあああああああああああああああああああああああああああああっ!」
両目から涙を飛ばしながらポカポカと叩いてくるハーフヴァンプ少女に対して、俺はドードーと馬を落ち着かせる要領でなだめる。
「その点は大丈夫だって。だって俺、まだ未成年だし」
この仮想現実内では未成年者のプレイヤーだと不健全なシーンには自動的に規制が入るということは周知のとおりである。なので、さっきのハーフヴァンプ少女の放尿シーンにおいても、彼女が言う口には出して言えないようなところは不自然な光によって隠されていたため、いっさい見えてはいなかったのだ。
俺の釈明にハーフヴァンプ少女は少しだけ落ち着きを取り戻したようだ。
「………………ほんと?」
うぐ。
性格は最悪だと知っているが、時々、どうもこのクソアマ。滅茶苦茶に可愛くなるときがあるから困る。涙を溜めた上目使いでこっちを見てくるハーフヴァンプ少女から目線をそらしながら、俺は『あ、ああ』と応えた。
しかしながら、そんなラブコメ的雰囲気もつかの間のこと。ずびびーと彼女が俺の服で鼻をかむことでぶち壊した。やっぱ嫌いだ。この女。




