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「わかるぜ。そのつらさ。俺もむかし、駆け出しだったころにヘマして、こういう状況になったことがある」
「…………え? ほんと、なの?」
俺の恥ずかしい暴露話にハーフヴァンプ少女は涙をぬぐって食いついてきた。
「ほんとほんと。誰しも初めての頃はあるもんさ。しかも、その時はソロで潜ってたからヤバかった。誰にも助けてもらえず、五、六回漏らした段階で【脱水】状態になって。意識は朦朧とするわ、HPは減ってくわで」
「そ、それで? どうなったのよぉ」
ハーフヴァンプ少女は鼻をひくつかせながら生唾を飲み込む。案外、聞き手上手なのかもしれない。話してる俺も調子が乗ってきて、口調がだんだん劇場調になってくる。
「そしたらなんと――――」
「なんと……、ごくり」
「なんと【ウッドテンタクル】の触手が、肉厚の果肉に水分が多く入ってる木の実を色々とどっかから運んできやがったっ! で、あろうことかそれを俺に食わせたんだ!」
「……な、なによぅ、それぇ。どういうことよぉ」
「俺もびっくりしたさ。んで、【ウッドテンタクル】に『世話』されながら生きながらえるうちに、気づいたのさ。俺が漏らしてるときに、俺を拘束している触手が微妙に動いて、俺から出たもんが地面のある一か所に注がれるようにしているということにな。俺は何とか利き腕の自由を取り戻して、必死に手持ちのナイフをそこに目がけて何回か投擲攻撃した。そしたら、ビンゴ。【ウッドテンタクル】の本体に攻撃が入って、確か一週間ぶりにようやく脱出できたというわけだ。で、その経験を今回活かして、あんたに漏らしてもらって【ウッドテンタクル】の本体の位置を特定したってわけ。よかったな。俺に比べるとあんたはずいぶんマシじゃないか」
「…………それは、その話が本当なら、……そうかもしれない、けど。でも待ってよ。どうして、よりにもよって、おしっこなんかさせ、さっ、させっ、させるのよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
今度は自分でトラウマを呼び起こしたせいで、再び地面を叩いて泣きわめくハーフヴァンプ少女の頭を俺は撫でる。
「あーよしよし。良い質問だぜ。俺もそれが不思議だった。だから後日、今度は捕まらないように細心の注意を払いながら、【ウッドテンタクル】に色々と実験してみた。そしてわかったことだけど、アイツらはどうやら冷水が嫌いで、温水を好んでるみたいなんだ。なあ、信じられるか? つまりアイツら、他の動物を死なないように世話しながら天然の加温水器にしてんだぜ? んで、もし死んでしまったら今度は肥料として有効活用しながら、次の獲物を待つ。あはは、まったくもって面白い生態してるだろ?」
俺はそう笑いながら、地面に突っ伏して泣いているハーフヴァンプ少女の肩を叩いた。すると、彼女のフルフルと震えていた方がぴたりと止まる。お、泣き止んだかな?
「ふっ、ふふ、あははっ」
……笑って、るのか?
そうか。そうか。
【ウッドテンタクル】の生態の面白さをわかってくれたのか。
俺も長々と説明したかいがあったぜ。
【ウッドテンタクル】始め、ダンジョン内にいるモンスターはそれぞれが特徴的な生態を持っており、それら生態が複雑に絡み合ってダンジョンの生態系を形成している。それを一つ一つ解明していくことも、ダンジョン探索するにあたっての楽しさになるということを理解してくれ――――。
「滅してやる」
どうやら違ったようだ。




