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「うわああああああああああああああああああんっ! みられたあああああああああああああああああああああっ! おしっこもらしてるのみられちゃったよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ! もうおよめさんにいけないいいいいいいいいいいいいいいいいいいぃっ!」
「まあまあ、まあまあ。女の子がおしっことか言うなよ。それに気にするな。俺はべつにあんたがもらしたこと、誰にも言わないからさ。あと声はもう少し落とせ? 徘徊型のモンスターが寄ってくるだろう? な?」
「うっ、ううぅ。せっ、説明しなさい、よぉっ。あた、あたしがぁ、あんたの目の前でぇ、も、もっ、ふぐっ、もらした必然性についてぇっ、えぐぅっ、ちゃんとせつめーしなさいよぉっ。もし納得できる説明がなかったらぁ、ぶ、ぶっころしてやるんだからぁっ。あんたをころして、あたしも、しっ、しんでやるんだからぁっ。ひっく……ううっ」
「ははあん。殺されるのはやだなー。わかったよ。説明しよう。まず【ウッドテンタクル】の攻撃判定は地中に潜ってる本体にしかない。かと言って、本体がいったい地中のどこにいるのかわからない。触手は魔法による遠隔操作だし、やつらは臆病で用心深いから地上には絶対に出てこないからな。だから、普通に倒すときは雑魚相手にもったいないけどMPを大きく消費して【ウッドテンタクル】の触手の下あたりの地面に範囲攻撃系のスキルをぶち込むしかない。でもさっきの状況じゃ、その方法は使えない。なんせ俺は範囲攻撃スキルなんて持ってないし、持ってるあんたは絶賛触手に絡めとられてたし? そこで、だ。あんた、ひょっとして疑問に思わなかったか?」
「ずびびー。うっ、うぅ、ぎ、ぎもん、って、いったいなにがよぉ」
黒外套で鼻をかんでいたハーフヴァンプ少女がすんすんと鼻をすすりながら涙をぬぐう。
「どうして【ウッドテンタクルス】の触手には強い利尿作用のある毒液が仕込まれているのかって」
「りにょう……、り、にょう、……おしっこ、……あたし、も、もらしっ、うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああんっ!」
少し落ち着いてきたかのように思えてきたハーフヴァンプ少女の情緒が再び不安定になってしまった。お漏らししたことが相当なショックだったようだ。
「……あー、わるい。トラウマ思い出させちゃったか。まあ、こっちで勝手に話を進めるな。【ウッドテンタクル】の触手になぜそんな面白い毒があるのか。俺は二つの役目があると考えている。一つ目は自衛のため。戦闘中、もし【ウッドテンタクル】の触手に毒液をかけられて尿意を催してしまったら、よほどのことがない限りその場を撤退するだろう。誰だってお漏らしするのは嫌だからな」
「あたしだっていやよおおおおおおおおおおおおおおおおっ! うわあああああああああああああああああんっ!」
「んで、二つ目。それは絡めとった相手を有効利用するためだ。あれ、見てみ」
「うううっ、うっ、な、によぉ……、ふぇ? ひっ、ひいぃっ!?」
俺が指さした方向には、別の【ウッドテンタクル】の触手に絡めとられたまま死んでしまい、良い感じに腐りかけている【ウォーウルフ】が宙にぶら下がっていた。それだけじゃない。この周囲は【ウッドテンタクル】の群生地になっており、樹木からぶら下がっている緑色の触手たちに、【ウォーウルフ】のような小型から中型までのモンスターや、シカやクマなどの通常動物たちが所々で囚われていた。
「ああやって死んでしまった動物は腐らせて、その腐敗物を地中にいる本体の上に落として肥やしにするんだぜ。その生態を知ってれば【ウッドテンタクル】の触手の近くに死んで腐った動物が落ちていたら、その下に本体がいるとわかる。だからそこをピンポイントで攻撃すれば、範囲攻撃なんかしなくてすむわけだな。でもあいにく、あんたが捕まった【ウッドテンタクル】の周りに死骸はなかった。そこであんたに漏らしてもらったってわけ」
「なんでそうなるのよぅっ! う、ううっ」
地面を拳で叩きながら精神的苦痛を表現するハーフヴァンプ少女。俺は彼女の頭を優しく撫でてあげた。




