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俺は濡れた地面まで駆けていく。
それから、ダガーナイフを地面に突き立てて土を掘り返す。
慌てた様子で緑の触手が俺の方にフラフラとよってくるが、もう遅い。
ダガーナイフが五回ほど地面を抉ったところで、切っ先に何やら固い感触のものに突き当てた。そのまま力を込めてダガーナイフを突き入れる。
ざくり。
『キキッ』
そんな感じの甲高い悲鳴が地中から聴こえた。そこで、初めて表示されていた【ウッドテンタクル】のHPバーにダメージが入る。そう、いくら俺が紙火力だからって、当たり判定のある【ウッドテンタクル】の本体に攻撃すれば必ず最低固定ダメである1が入るのだ。すなわち、【ウッドテンタクル】の1しかないHPバーはものの見事に吹き飛んだわけである。
すると、みるみるハーフヴァンプ少女を拘束していた緑の触手は枯れたように茶色くなって、朽ちていく。やがて、それは塵が風に飛ばされて消えるように跡形もなくなった。
あとはモンスタードロップアイテムである【ウッドテンタクルの白濁液】が俺のアイテム欄に自動的に追加されたことを示すテロップが視界の隅に出てくるのみ。嘘か本当かわからないが、媚薬なんかに使われているらしい代物である。
「何はともあれ、よかったな。俺でも何とかできるモンスターで」
【ウッドテンタクル】から解放されて地面に落ちたハーフヴァンプ少女に声をかけた。
しかし、返事はない。
彼女は地面にへたり込んだまま、女の子みたいに鼻を鳴らしながら泣いている。いや実際、パーソナルキャラは女の子なんだけどさ。
まあ、憐れだとは思うが、これは彼女のように【ウッドテンタクル】に拘束されてしまった人間は必ず通らなければならない唯一修羅の脱出法なのである。それを乗り越えてこそ、このクソ触手モンスターなんかにはもう絶対捕まらねえという確たる意識が芽生えるのだ(経験者は語る)。
俺はその辺に落ちていた木の枝でもってして、向こうの方にドロップしていた彼女のパンツを拾い上げて、それを泣いている彼女の前に恐る恐る差し出してみる。
「とりあえず、はいたら?」
彼女はそれをぶん取ると、天を仰いで関を切ったかのように大声で泣き叫び始めた。




