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「なんだよ。褒めたじゃん。羨ましいって言ったじゃん」
「まあ、いいわ。言い方が気に食わないけど。それで? 一応、聞いたげる。あんたのジョブはなんなの?」
俺のジョブ、ねえ。
俺の方はまあ、彼女の言ったシーフで系統的には当たらずも遠からずといったところである。
しかし、おいそれと自分のジョブを出会って間もない人間にバラすほどバカじゃない。仮想現実内において、自らのジョブは先に述べたジョブの人数制限もあって重要な個人情報の一つなのである。
つーか、一般的に上位のジョブになるほどピーキーな能力値になっていくから、もし自分のジョブが敵にバレちゃうと対策立てられて弱点を突かれかねないというリスクがあるわけで。まあ、【分析眼】のようにステータス開示系スキルや、暗黒騎士みたく使用するスキルが特徴的すぎて即バレする場合もあるけどさ。
リスクは最小限に抑えるのが賢いやり方であることは言うまでもない。だから信頼のおける相手にしか自分のジョブは言わないのが得策だ。
なので、俺は肩をすくめるだけにしてはぐらかした。
「なっ、なによぅ。あたしは教えたげたでしょー。あんたも教えなさいよー」
「俺は教えてくれとは言ってない。あんたが勝手に喋ったんだろ」
「……けち。あたしは言ったのに」
「あー、はいはい。そんなどうでもいいことは置いといて。ほれ、さっさと行くぞ。今がチャンスだ」
マップをインベントリにしまって立ち上がる。
「えー、もう少し休んでいかない? シャノーラちゃん疲れちゃったー」
「だめ。今行けばいい感じに徘徊してるやつを素通りできるの」
「いいじゃない。そんな雑魚モンスター、あたしがちょちょいのちょいで倒したげるわよ」
雑魚Pの汚いおっさん相手に不運コンボで不覚をとったことをもう忘れてしまったのだろうか。なんて危機感のないお気楽な脳みそなんだ。蜂蜜か何か入ってんじゃないの、と飽きれてしまう。
「あのねえ。この際だから言うけど、俺はあんたの腕が信用できないからエンカウントしないようにしてんだよ。それ、わかってる?」
俺の言葉に、ハーフヴァンプ少女はムッと細い眉を釣り上げた。
「ふん。なによ。信用できないですって? いいもん。そんなこと言うなら、ついてってあげないわよ。あたしたち、ここでおわかれね」
「あ、そう。それは有難い申し出だ。ちゃお」
イタリア式に手を振って挨拶。
踵を返して彼女を置いていこうとしたが俺の服が引っ張られることで阻止される。
またしてもか、ぐえー。
振り返ると、彼女の顔は出会ってから今までで一番、不機嫌そうになっていた。




