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「ジョークじゃないか。こうやって、徘徊型モンスターの位置を探ってるんだよ」
荒い息を吐いてハルバードの二撃目を振り上げていたハーフヴァンプ少女は動きを止める。やがて、もとのようにしゃがんで俺の服の裾を掴む位置に戻った。
「……そんなことができるの? 確かにさっきから全然モンスターと出会わないって思ってたけど。それ、なんてスキルよ」
「スキルじゃない。仕様だ。ダンジョン内には周囲にいる地に足付けて動いてるモンスターの位置をだいたい探れるポイントがいくつかある。だからルート取り次第では、ある程度はこっちでエンカウント率を調整することができるのさ」
【インベルグの密林】くらいのダンジョンランクなら最深部まではモンスターと無駄な戦闘なしで行けるだろう。
「うそ。初耳よ、それ」
「だろうな、ド素人さん。また一つ賢くなれたじゃないか。よかったね」
「むぅ、確かにそうだけど。むかつくわね」
ジト目でこっちを見るハーフヴァンプ少女は放っておいて、よいしょと起き上がる。それからモンスター位置情報を自分のマップに追記。そこから、モンスターの徘徊ルートのパターンを逆算し、エンカウントしないような道順を考える。というのも、このメンツでモンスターと戦うには心もとないからだ。
なんせ俺はPvP以外ではほとんど物理的戦力の足しにはならない。対プレイヤー戦以外では所詮、紙装甲紙耐久紙火力なのである。かと言って、少しはマトモな戦力になるハーフヴァンプ少女だが、こと肝心なところでヘマとかドジをしてしまう不幸体質持ちだから頼りにならない。ていうか、したくねえ。
「あー。ちなみに教えといてやる。この方法はランクB以上の【聴覚強化】を取得してないとできないぜ」
さっきまで俺がやっていたように地面に耳をつけて『むぅ、なるほどね。確かに、なにか感じるわね』とか呟いてたハーフヴァンプ少女。
「なによ。早く言いなさいよ」
頬を赤らめながらコホンと咳払いして場を濁した彼女は、ふと何かに気づいたかのようにハッとして俺を見る。
「ん? ちょっと待ってよ。ランクB以上のスキルっていうことはつまり、あんたって上級職だったの?」
「……まあな」
「そのHPとその格好だから、てっきり駆け出しのシーフかなにかだと思ってたわ」
「ああ、そうかい」




