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「ん? 読めないって、何が」
「地図が、に決まってるでしょ」
「……日本語で書いてるつもりなんだけど。もしかして字がきたないとかか?」
そんなことないはずなんだけどな。ハーフヴァンプ少女が眺めている地図をのぞき込む。目印ポイントなどが色々と漢字かな交じり文で書き込んである。崩れてはいるが他人が読めないほど汚くはない。一応、うちの雑貨屋で売り物にしてる代物なので。
「字じゃないわよ。地図が読めないって言ってるの」
俺は彼女の顔をまじまじと見つめた。うそ、……だろ?
「どう見るのよ、これ。どう向ければいいのよ」
地図を回転し始める彼女に俺はこの世の終わりを垣間見る。
「ちょっと。ねえったら」
ハーフヴァンプ少女の声で遠のいていた意識が戻ってきた。
「いいか。普通に地図を持て。文字がちゃんと読める方向な。で、そう持ったときに上が北だ。つまり、あんたは北を向いてこの地図を見ればいい」
「北ってどっちよ」
「太陽を見るのが一番早いな。太陽が昇ってきた方向を右手、沈む方向を左手にすれば、身体の正面は自然に北を向くだろ」
「太陽ってどの太陽よ。四つあるでしょ」
「第一の太陽を見るんだよ」
「第一ってどれなのよ」
「一番でっかい太陽だよっ」
「大きさなんてわからないじゃないっ」
「見比べろよっ! 簡単だろ!」
「まぶしくて見れないわよっ!」
「葉っぱかなんかにかざして見ればいいだろッ!」
「どの葉っぱ使えばいいのよッ!」
「そんなもん、どれでもいいだろうがぁーッ!」
「どれでもいいが逆に困るのよこのばかぁーッ!」
二人してゼーゼーと肩で息を吐いて汗をぬぐう。しかしながら、消耗の具合は俺の方がひどかった。すでに気力ゲージが真っ赤になってる。やばい。
「そもそもっ!」
ビシッとそんな俺に追い打ちをかけるように叫ぶ。
「そもそもシャノーラちゃんは方向音痴なのっ! こんな地図あっても絶対に迷う自信があるわっ! だからあんたに付いていくのっ! 異論は認めないわよっ! わかったっ!?」
彼女は頬を赤らめつつも胸を張って宣言したのだった。
…………。
もういいや。
勝手にしてくれ。




