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「うわサイテー。シャノーラちゃんに暴力ふるう男子とかマジでありえないんですケドー」
「ああ、そうかい。あり得ない女にあり得ないといわれて俺はとっても嬉しいよ」
「うっさい。っていうか、何よこれ」
俺の自作地図を広げて首をかしげる彼女。
「地図? ここの? あんたが作ったの? ふうん」
「それやるから、帰れ。そんで二度とダンジョンにソロで入るな。わかった?」
「あたしに指図しないで」
「あーはいはい。どーもすみませんでした。じゃあな」
今度こそ踵を返す俺は、嫌な予感がして背後を確認する。しかし、ハーフヴァンプ少女は俺があげた地図をじっと見ながら何かを考えているだけだ。よかった。これでようやく進めるぞ。
「ちょっと待ちなさいよ」
ぐえー。
またもや裾を引っ張られてしまった。さすがにキレる俺の脳みそ。
「なんなんだいったいっ! なんなんだホントにもーっ!」
「うわキモ。きたない。つばを飛ばさないでよ。あとうるさい」
「あんたねえ。俺の時間は無駄にしていいほどないかもしれないの。そして最深部まで行くためにはこんなところで時間をつぶしている余裕はないの。おわかりか」
「なによ。間に合わないんだったら、ここで引き返せばいいじゃない」
「やだ。せっかくここまで来たんだ。最深部まで行くもんね」
「なんでそこまでして行くわけ? どうせ最深部にはダンジョンボスモンスターがいるだけでしょ。そんなつまらない場所にどうしてそんなに行きたいのよ。あんたって本当にヘン。っていうか、やっぱりヘンタイなの?」
「……はあ。全然わかってねえなー。まあ、いいぜ。あんたがダンジョン探査についてズブのド素人だってことは十分にわかってる。どうせ最深部なんてまだ一度も到達したことはないんだろ。つーか、ダンジョンに潜ったことさえあまりないんだろう。だからまあ、俺は何も言わないさ」
「……なんか、むかつく」
頬を膨らませるハーフヴァンプ少女。
「それで、今度はいったいなに。なんで俺を止めたわけ? 火もやった。食べ物も水もやった。地図もやった。お次は何をご所望なんでしょうかね」
「読めない」
嫌味を込めた俺の台詞に、ハーフヴァンプ少女はぼそりと応えた。




