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「……あわっうう! ば、ばかっ! ばかばかばかっ! なんで鳴るのよーっ」
「身体の方はずいぶんと正直なようだな。なんだい、その卑しい音は? ん?」
「こっ! これはそのっ、ちが……。し、仕方ないじゃない。近接系ジョブは燃費わるいのっ」
「言い訳してないで欲しいなら欲しいってちゃんと言っちまえよ。楽になるぜ。さん、はい」
「いらないっ! そんなの絶対いらないっ!」
ぐー。
頬を赤く羞恥で染めて自分のお腹をぽかぽか殴り始めた食いしん坊さんに、ニヤニヤが止まらない俺は再び【レムバス】を放り投げた。今度は返ってはこない。彼女は俺の【レムバス】を悔しそうに眺めた後、襲ってくる強い欲求には耐えられなかったようで涙ながらにそれを頬張るのだった。
「うぅ、美味しいじゃない。ちくしょー。ちくしょー」
さいですか。それはよかった。俺は燻っていた焚火に水をかけて消す。そして軽く伸びをしてから、リスのように【レムバス】をちまちまと齧っているハーフヴァンプ少女に手を振った。
「じゃあな。楽しかったよ。今度こそ、お達者で」
すると彼女はきょとんとした後、慌てて立ちあがってしかめっ面になる。
「じゃあなって、どういうことよ」
「そのままの意味だけど。俺はもう行く」
「ちょっと待ちなさいよ。あたしも一緒に行くわ」
「はあ? あんたダンジョンから出るんだろ?」
「あんたもでしょ?」
「いや。俺は最深部に行く。つまりあんたとは真逆の方向だな」
「なっ、なんでよっ! もう今週期も終わるじゃないっ! あたしは嫌よ。来周期にふかふかのベッド以外の場所で目覚めるなんて」
「俺もできればそれは避けたいね。だからこそ、今ここを出発するんじゃないか。そうすればちょうど日が沈む頃には最深部に到着する。そして、どんなダンジョンにも最深部にはダンジョン外に出られる脱出用転移魔法陣がある。だから、今週期が終わるまでには自分のベッドに入ってぐっすりって予定。……まあ、さっそくあんたに引き留められてその予定は狂ってる最中なわけだ。というわけで、バーイ」
踵を返して立ち去ろうとすると、上着の裾を後ろから掴まれた。
ぐえー。




