48
*
やってしまった。
両手で顔を覆って自分の浅はかさに後悔する。
あれから半刻ばかり過ぎていた。
俺は今、赤く揺らめく炎の手前に座っている。
そして、向かい側にはハーフヴァンプ少女。
俺と彼女の間にある焚火の上には炊事鍋がぐつぐつと音をたてていた。
肉と野菜をぶっこんで作った即席のごった煮である。
ああ、なんてことを。このお人好しめ。
面倒事を積み上げていく自分の短所が恨めしい。
「んー、お塩が少し足りないわね」
ホクホク顔でごった煮を食べていたハーフヴァンプ少女はふいにそんな感想を言った。俺は無言で中指を突き立てる。
「お・し・お・が足りないって言ってるんですけどー」
「………………知らねーよ」
「あーら、そんなこと言っていいのかしらねー。このシャノーラさまがせっかく見逃してアゲルことにしたヘンタイの分際でぇ。あたしのグリムヒルデの錆に、そぉんなになりたいなら考えなおしてあげてもいいのよ?」
グリムヒルデっていうのはもしかして鍋を吊るつっかえ棒の代わりになってる推定ランクSレアのネームド装備であるハルバードのことか?
そんな悲しい武器の錆になるなんて、泣けるぜ。
仕方がないので口をへの字にしながら俺は塩をインベントリから取り出して鍋に投入した。それを見てハーフヴァンプ少女は満面の笑みになると自分の木椀におかわりをよそう。
念のために言っておくと、焚火も含めて調理に使った材料は件のハルバード以外、全て俺が用意したものだった。そこんとこをこのアマは理解しているのだろうか。
「何してるの? あんたも食べていいわよ? こんなに可愛い女子と一緒にご飯が食べられるなんてそうそうないでしょ? ふふん、いいわよ。トクベツに許したげる。ほら、お皿よこしなさいよ。ついだげるから。自分のシアワセを噛みしめて食べなさい」
ありがとうの一言もねーなー。
まあ、赤の他人から感謝とかされても何の得にもならないわけなんですが。




