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『さむい。おなかへった。さむい。のどかわいた。おなかへった。さむい。こわい。さむい。おなかへった』
明らかに自業自得だ。準備不足と認識不足と技術不足の不足トリニティ。
冬の雪山にトレッキング感覚の軽装で登山する人間が遭難するそれと同じ。
実際、助けるのは簡単だ。火でも水でも食料でもくれてやればいいだけの話。
けれど、この仮想現実において赤の他人に偽善を振りまくとロクなことにならないことは誰だって承知していた。なぜなら、その赤の他人がいったいどういうやつなのかわからないからだ。
なんせ容姿はもちろん、その気になれば性別だって騙れるからなー。この世界では初対面のプレイヤーに対する評価が圧倒的にしにくいために苦労することが多い。そういや、メイメイが言ってたっけ。最近、現実ではよくニュースになっているらしいねえ。仲良くなったうえでリアルオフ会を開いたら想像とはかけ離れていてトラブった、みたいな。一部では殺生沙汰になることもあるそうな。それをまたASA反対主義者たちが大義名分にしてデモを起こしたり。さらには過激派がテロを起こしてASAの中継サーバを月まで吹っ飛ばしたり。
世も末だなー。そろそろラグナロクも近いんじゃない?
とは言ったものの。
イライライライライライライライラ。
丸まってめそめそしているだけのハーフヴァンプ少女にイラつく感情が収まらない。
いけないねえ。このままだと、いかなる時も平常心を売りにしていたアイデンティティが崩れ去りかねないから困るよねえ。
おーけー。
そんな時は心頭滅却して【瞑想】スキルでMPを回復するのが一番なんだ。
やり方は簡単。まず足を組んで座り、こんなふうに親指と人差し指をくっつけてわっかを作る。あとは目を瞑れば完璧さあ。するとどうだ。たちまち穏やかな気持ちになってきて、ついでにMPが秒速+10で回復していくぞ。
わー、すごーい(棒)
『うう、もう死んで転生しちゃおうかなぁ』
ぷっつん。
外人の通販番組的思考劇場を繰り広げていた俺の頭の中が唐突ブラクラした。
目頭を押さえて再起動。
『…………もう死んで転生しちゃおうかなぁ』
だああああああああああ。
もおおおおおおおおおお。
俺はすくっと立ち上がって大樹の枝から飛び降りるのだった。




