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そうなる前でも、この仮想現実では知覚は現実のそれとまったく相違ないので、精神的につらくなるのは間違いない。ちょうど今現在のハーフヴァンプ少女のように。
『…………さむい』
だろうな。
鋭敏化された俺の耳が彼女のか細い消え入りそうな呟きをとらえた。
ハーフヴァンプ少女の上半身の装備は変わっていない。
もとから着ていた白ワンピースの上に俺があげた黒外套を羽織って座り込んでいる。
明らかにあのワンピースには装飾品としての意味合いが強く、何のスキルも編み込まれていないのは一目瞭然だ。つーか、そもそも半壊してるし。また、俺の黒外套にはいくつかスキルが編み込まれているとはいえ、【気配遮蔽】と【認知妨害】、さらに【視覚攪乱】などの防寒とは縁のないものばかりだ。
というか、スキルスロットの空きを増やすためにあの黒外套に潜在的に編み込まれていたランクB相当の防寒スキルに代替できる【地形順応】ランクCを強制撤去しちゃったからなー。現実とは違い、ちゃんと防寒系スキルのついた装備を着込んでないと寒さはしのげない。つまり、あの黒外套をいかに上手く着込んで暖をとろうとしても――――。
『…………さむいよぉ』
自然、こうなるのである。
だーかーらー、泣きべそかく前に早く火をおこしなさいよ。
焚火するアイテムがなければその辺で調達すればいい。ここは密林。燃えるようなものはいくらでもある。それに気づかない人間は絶対にいない。
……もしかして、火を起こせないのだろうか?
火を起こす手段がないと思ってる?
種火になるアイテムや火属性スキルを何も持っていないならいないで、他に手立ては色々とあるんだけどなあ。たとえば、原始的に木と木を擦り合わせた摩擦熱で着火するとか。そこらへんの物理現象はこの仮想空間内ではわりと忠実に再現されているのである。
それを知らないのか、知っててもできないのか。




