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――――だったはずだったんだけどなあ。
どうしてまだこんなところにいるんだろう。
自分のブレブレの行動原理に若干の違和感を覚えて、ややうんざり気味の俺の姿がそこにあった。
「はあ」
時刻はあれから五時間ばかりが経過していた。
日も暮れてすっかり夜の帳が下りて、樹木の隙間から降り注ぐ星々の輝きが樹精たちを活気づけ淡い幻想的な雰囲気を醸し始める頃合いである。
さて、俺は未だに先ほどいた安地に身体を囚われていた。
正確に言うと、安地の外周に生えている大樹の一本に上り、その全体を見下ろせる位置で枝に腰かけ幹に身体を預けていた。
どうしてこうなっているのかというと、いったいどうしてだろうと自分でも疑問に思う。
ただ、あの憐れな女の子が気になったというか。
少し、胸につっかえたものが気持ち悪かったというか。
これは、あれだなー。
拾ってきた捨て猫を飼う了承を親から得られずに元の場所に戻しにいってきた帰り道、ふと小雨がぱらついてきた的な。そんな感じで何やらもやもやした気分を振り払いきれず、まあ、戻っても彼女には絶対に見つからない自信もあったし、結局あの後すぐに引き返してきた次第である。
んで、果たして案の定。
俺の予感は的中というか。
件のハーフヴァンプ少女は未だそこにいた。
手枷のカギ自体はすぐに見つけたらしい。
俺が戻ってきて陰からこっそり眺め始めた時にはすでに捕囚状態は解けていた。
なのにどういうわけか、この安地から動こうとしないのだ。
そしてそのまま五時間が経過し、今に至っている。




