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「さて、と」
辺りの地形を見回して見て間違いないと確信する。樹木の密集具合、苔岩の露出具合、聞こえる鳥獣の鳴き声や遠吠えの量と種類。ここは【インベルグの密林】でもわりと深部のほうだ。俺は足元の小さな花を幾つか摘み採った。青白い独特の花弁をもったこの花が森系ダンジョンの中~深部にしか自生しない種であることもその裏付けになる。
手をパッと放して、そのまま花弁を地に落とす。
青白い花びらは雪のように直下の地面へとゆっくり落ちた。
風は吹いていない。無風。道理で清すぎる空気が停滞しているわけだ。
「よっ、と。ほっ。ほっ」
背の高い大樹を駆け上がる。太陽の位置と目測で見渡した周囲の情報から、方向感覚を修正するためと、ここが【インベルグの密林】のどの位置にあたるのか割り出すためだ。
「あー、なるほど」
所々、樹木の海から顔を覗かせている背の高い大木を目印にして、瞬時に自分の位置を把握した。ガイドポスト冥利につきるね、まったく。予想通り、密林の中心近くまで潜り込んでいるようだ。インベントリのアイテム欄から取り出した自作マップに自分の位置をマニュアル操作で反映させた後、ススッと蔦を沿って大地に滑り下りる。
次はどうするか。
先ほど転移のために使用した【アライアドの繰糸】は、アイテム説明の通りなら『一度会話したことのある任意のプレイヤーの近くまで空間転移することができる』というレアな代物だった。しかし、この『近く』というワードが曲者で、初めて使ってみた俺にとってどれくらい近くに転送されるのかわからない。とにかく周囲には誰もいないし、死体も転がってないようなので、次に進むべき道を探すため何かしら手がかりのようなものがないか探す。
「おー、ラッキー」
すぐにそれは見つかった。