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そうして二時間後。
俺はアンビリム大陸東南一帯に広がる自然ダンジョン【インベルクの密森】にいた。
順を追って説明しよう。
まず【テルベルグ大霊峰】から【帰還符】にて【王都ジークハイン】に転送。
故ナゲーヨさんが率いていたパーティーのメンバーに対し、相応の金銭を支払って依頼の破棄をしてもらった。
その後、普段は絶対に使わない【瞬間転送ポータル】を何回か乗り継いで【ターミナス大陸】から【アンビリム大陸】へと移動。さらに如何わしい転送屋と取引して【アンビリム大陸】の西から東へ飛ぶ。
その最中に追加料金と称して手持ちの有り金のほとんどをぼったくられつつも、辺境集落【ルズベリー】近郊にある雑貨屋『みちしるべ』に帰宅した。
すると、いつも俺が絵を描いてるか木彫りしてる雑貨屋の会計テーブルの上に件の双子姉妹の書置きを見つけたのだ。それによれば、どうやら彼女らは二人で南方に広がる【インベルクの密森】へ向かったらしい。
そこはあまり複雑なダンジョンでなく、モンスターも単純で、双子ちゃんズが時々レベル上げのために潜っていた場所である。決して彼女たちのレベルでどうにもならないようなモンスターは出てこないはずだ。
公式発表のない隠しアップデートでもあったか、それともPvP(プレイヤー対プレイヤー戦闘)に巻き込まれたか。後者なら最悪だ。
雑貨屋裏の倉庫に保管しておいた伝説級アイテム【アライアドの繰糸】を使用して再び空間転移した。
そうして。
こうもかくして。
俺は【インベルクの密森】にいた。普通であれば仮想現実時間で一週間以上かかる距離を強引な空間転送で何度もカッ飛ばしてきたため、胃の中のものがグルングルンと荒れ狂い、頭の中のものもグワングワンとうねり狂う。やっぱり空間転移なんかするもんじゃねーなーと再確認して、ようやくたどり着いた場所。
あまりにも背の高い木々が密度高めに生い茂っているため、時間的に太陽が真上に来ている頃合いだというのに辺りは黄昏時のように薄暗い。鳥獣の鳴き声が絶え間なく響きわたり、甘苦しい空気にはおそらく多分の酸素が含まれているのだろう。ただでさえ空間転移酔いで気持ち悪いのに、いっそう不快な気分を俺の五感へ惹起する――――。
ヒラヒラと目の前を横切った【燐光蝶】で我に返る。いけない。いきなり身体が森精の瘴気にあてられたせいか、知覚にマイナスの補正が入ったらしい。ねっとりした空気が四肢に絡みついてくるのがわかる。気持ち悪い。込み上げてきたものを呑み込んで頭を左右に振る。