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「榊原さーん、呼んでるよー」
昼休み中。
自作弁当に残った最後のおかずをお箸で口に運びながら片手で文庫本を開けて読んでいると、今まで話したことはないクラスメートから話しかけられるという事案が発生した。仮想現実ならまだしも、この現実世界においていつも通りでない事が起きると、それはたいてい面倒なことであると相場は決まっている。おそらくろくなことではないだろうと推測しながら視線を活字から離して見上げると、朗らかな笑顔のまぶしいクラスメート――――たしか名前はサトウさんが親指で教室の入り口を指摘している。
教室のざわつき、特に男子が色めきだっていることから状況を容易に看破できた。あんまり向けたくはなかったが、サトウさんが指さしている教室の入り口に目を向ける。
「センパーイっ」
やはりお前か。あっちいけ。
黒髪巨乳伊達眼鏡腹黒娘にそういうアイコンタクトを含めたジト目をくれてやったのであるが、彼女は何を勘違いしたのか、『しつれーしまーす』と可愛らしい会釈とともに上級生の教室に堂々と足を踏み入れてトテトテとまるで男なら守ってあげたくなるような足取りで窓際にある私の席までやってくる。
「ねー、榊原さん。篠原やちおと知り合い? 今度うちに紹介してよー」
サトウさんのコソコソ話に私は『彼女との続柄はただの先輩後輩。あなたと一緒』と返しながら弁当を鞄に片づけているうちに、件の伊達眼鏡の腹黒娘が目の前までやってきていた。
両手を後ろに回し、満面の笑みである。
「なんの御用かしら」
「ちょっとご相談したいことがあるんですけどぉ。場所かえませんかぁー?」
「……わかった」
ため息を吐いて立ちあがる。私も彼女と会話しているところなんて誰かに見られたくはないし、それに猫を被った彼女を見ているとむかついてくるのも事実。利害の一致というやつだ。
「ついてきて」
私の言に伊達眼鏡の後輩は素直にこくんと頷いた。




