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ダンジョンガイドさんの仮想現実生活ログ  作者: まいなす
『第2話 ダンジョンガイドさんは悟った』
178/183

3


「いやー、でもだったら邪魔したなー。どうぞ、続けなよ。ぼくはちょっと長旅で疲れちゃったからひと眠りしてくるし。その間にこのイチャラブ絵、完成しときなって、トーノ」


「なんだよイチャラブエって。どっかの国みたいな名前を付けるなよな」


「ジンバブエじゃないよ、トーノ。イチャラブ絵はイチャラブ絵さ。今きみが描いてる絵を客観的に眺めてみなよ。これはただの写実画じゃないだろ。シャノちゃんの色っぽさが三倍増しくらいになってる。つまりこれはきみの目から見てシャノちゃんがどれだけ魅力的に写ってるのかを如実的に物語ってるに他ならない妄想の具現化絵でしょ?」


「お願いします。的確な批評はやめてください」


 俺も途中からそれに気づいてはいたけど、筆を持ってる自分の手をとめられなかったのだ。なんつーか、フラストレーション溜まってんなー。自分で言うのもなんだけどさ。俺だってれっきとした男なのである。


 俺とビブリオくんの掛け合いを見ていたシャノがエア肩パンの速度をさらに上げた。やばい。彼女の腕の振りに残像が尾を引いている。


「あはは。というわけで、ぼくは二階の自分の部屋に退散することにするよ。あ、それともここの壁は薄いから、もしきみたち本体もイチャイチャするつもりなら、ぼくは街の宿屋に行って眠ってくるけど?」


「変な気を回さなくていいって、ビブリオくん。俺とシャノは清らかなお付き合いをしてるんだから。なあ?」


「ふぇ? あ、う、うん。そ、そうよ。あたしたちはストイックな、お付き合いを、……してるんだから」


 胸を張る俺と、台詞の途中からしょんぼりし始めるシャノを眺めて、ビブリオくんは飽きれたというふうなため息を盛大に吐いた。


「……いやー、まあ、仕事仲間とかだったらそれでいいと思うけれど、きみたち付き合ってるんだよね? 一応、恋人同士なんだよね? だったら、その姿勢というか、接し方というか。ぼくは、どうかと思うけどなー。トーノ、ちゃんとエスコートしてる?」


 そう言われましても。

 実際、俺は彼女ができたのが初めてなもんだから、具体的に恋人が何をしているのかわからないのである。知識は全部小説とか漫画とか人伝の又聞きとかなので不安だし。いやー、手を繋ぎたいとか思って色々とそれまでのプロセスに策を練ったりして挑戦してみたんだけど、今のところものの見事に撃沈されてるしね。


 ああ、思い出してきて悲しくなってきたぞ。

 五回もチャレンジして取っ掛かりさえつかめてないなんて。

 こうなってくると、シャノは俺が今まで挑んできたどのダンジョンよりも難易度が高いと言える。ランクはおそらくA++クラス間違いなしだ。くっそー。


 俺が返答に困って流し目でシャノを眺めると、当の彼女はビブリオくんに頬を膨らませて少し拗ねている。


「他人の色恋に口出ししないでほしーんですケドー」


「ふうん? じゃあ、シャノちゃんはこのままでいいんだ?」


「……べ、べつにいいもんね」


「じゃあ聞くけど、きみたち付き合い始めてからお互い直に触れ合ったことってあるの? どうせ、ないでしょ?」


 ビブリオくんの千里眼じみた指摘に、俺とシャノは顔を見合わせる。よくよく考えてみると、確かに。付き合い始める前は色々と、本当に色々とやらかしてた感は否めない感じだったのであるが、付き合ってからというもののお互いの人肌の温もりにさっぱりご無沙汰な気がする。


 うーん。

 俺はひょいと自分の右手をもってしてシャノの頭でも撫でようかなと振り下ろした。するとシャノは物凄い反射神経でもってして俺の右手を躱す。今度は左手で彼女のおでこにデコピンでもしてやろうかなと企んでいると、シャノはその心を読んだかのように俺のデコピンの間合いの外まで飛び退いた。


 はあ。

 俺はため息を吐く。

 自棄になってしばらくシャノと追いかけっこ。

 そして十分後。

 そこには全身汗だくで荒い息を吐く俺とシャノがいた。


 だめだ。

 手を繋ぐどころか、シャノは全然触れさせてくれなくなっていた。


「シャノ、はぁっ、はぁっ」


「はぁ、……な、なに……よぉ……はぁ」


「さ、さわらせてくれハァハァ」


「ぅ……や、……やだ」


「……言っとくけど、おっぱい触らせてくれとかえっちなこと言ってるわけじゃないんだぜ?」


「わ、わかってるわよっ! ばかっ! ヘンタイっ! 死ねえろトーノっ!」


「じゃあ、なぜ逃げる」


「だ、だって………………、は、はずい……じゃん」


 お、俺だって恥ずかしいのを圧して触れ合おうとしているのにっ。

 銀色の髪を指で弄ってもじもじしているシャノに抗議の視線を向けるが、彼女は唇を尖らせるだけで取り合ってくれない。ひざまずいてorzポーズになる俺の肩にビブリオくんがポンと手を置く。


「ぼくにまかせて」


 親友よ。お前はいったい何をするつもりなんだ。

 ビブリオくんの瞳の奥に怪しく光るいたずらっ子特有の輝きに、藁をもすがる思いですがりついてよいものだろうかと、俺は自問自答した。


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