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ダンジョンガイドさんの仮想現実生活ログ  作者: まいなす
『第1話 ダンジョンガイドさんは迷った』
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 およそ五時間かけて崖の八割を登ったところで七回目の休息をとっている時のこと。

 上を見上げるとすでに地上はすでに夜になってるのか眩い光は見えない。しかし、月と星の淡い寂光が降り注いでくるところまではすでに来ていた。残りはもう少し。でも焦ってはいけない。ゆっくり、確実に。それが崖のぼりの基本だ。


「そういえば、あんた。あの宝箱には、なにが入ってたのよ」


 崖にアンカーで吊るした簡易テントの自作ポータレッジの上に腰かけて足をぶらぶらさせながらホットココアをすすっていたシャノがふと思い出したように訊いてきた。彼女の隣でスケッチブックにえんぴつを走らせてた俺は、うっちゃり自分のインベントリを開ける。


「これだ」


「…………なにそれ」


「さあな。まだ鑑定中だから何なのかさっぱりだぜ」


 シャノが怪訝そうな顔をするのもごもっとも。俺が取り出したるは麻を編んだボロ縄だったからだ。宝箱に手を突っ込んで触った感触そのもののものが出てきたから、俺もビックリした。


 いったい、これがなんであるのか。

 それを知るために崖を登り始める前から鑑定し始めて、今でようやく鑑定ゲージが一杯になりかけているところだった。俺の鑑定スキルは【分析眼】によりランクA相当になってるので、ほとんどのアイテムはランクに寄らず一瞬で鑑定できてしまうわけだけど、これだけ時間がかかるってことは、このボロ縄。どうやらただのアイテムじゃないくさい。何らかの重要なクエストアイテムなのかもしれない。


 じゃなきゃ、あんだけ怖い思いして手に入れた意味がないしなー。まあ、なんにせよ。鑑定が終了すれば、じきにわかるだろう。


「ふうん。何なのかわかったら教えてよね」


「もし何の役にも立たないもんだったら?」


「うーん。そうねえ。あんたを叩く鞭の代わりにしたげる。うふふ」


 そんな満面の笑みで言われても。総毛だたせながら俺がボロ縄をインベントリにしまうと、彼女の興味は俺のスケッチブックに移った。


「ねえ、それ見せてよ」


 シャノがスケッチブックを指して言う。


「……まあ、別にいいけど」


 ホットココアが入ったコップと交換でシャノにスケブを渡した。ペラペラとスケブをめくり始めるシャノ。うーん。他人に自分の描いたものをこう、目の前で見られるというのはちょっと恥ずかしいというかなんというか。手持無沙汰な俺はホットココアを飲む。


「……あ」


 シャノはそれに気づいて小さく声を上げた。彼女の視線は俺の手の中のコップに注がれている。


「え、なに。もしかして、まだ飲みたかった? なんならつぎ足すけど」


「べ、べつに。そういうんじゃ、……ないけど」


 シャノは頬を赤くして自分の唇を指で少し撫でて俺から視線を外すと、再びスケブをパラパラとめくる作業に集中し始めた。そんな彼女を眺めながらホットココアをすする俺。シャノがスケブをめくりながらも、ときどきこっちをチラチラ確認してくるのが気になるところではある。もしかして、このホットココア。俺が作成したオリジナルブレンドだってことに気づいたのだろうか。


 だったら、ますますバレたらまずいよなー。ほろ苦の隠し味と疲労回復効果を期待して【樹巨人エント】のタマタマを磨り潰した粉末を少々混ぜてるなんてことが知れたら、首ちょんぱ確実だ。


 そんな感じで、冷や汗することしばらく。

 シャノはスケブをめくり終えると口を開けた。


「……少ない」


「は?」


「あたしを描いてるのが、少ないっ!」


 彼女は唇を尖らせて拗ねる。


「少ないってお前。俺は別に数えて描いてるわけじゃないんだし。そりゃ少ないこともあるだろうさ」


「じゃあどういうことよ。ユーリが四枚、ダルマとあたしが五枚、ドクとミカゲが六枚。まあ、ここまでは許してあげてもいいわよ。でも、ミミが十五枚もあるのはどういうことか説明して」


「……あ、そんなに偏ってる? まじで?」


 うっそだー。

 シャノが持ってるスケブを確認して一緒に数えてみると確かに。ミミさんの写り込みが圧倒的多数を占めている。


「どういうことよ」


 シャノがジト目で見てくるが、どうもこうも。


「あー、たぶんほら、あれだ。ミミさんって休憩のときにいっつも座って歌ってくれたじゃん? みんなを癒してるその姿は結構サマになってたし、俺も絵を描いてたのは休憩してたときだったし、上手い感じにバッティングしたというか。その、……シャノさん?」


 だんだん涙を目に溜め始め睨んでくるシャノに俺はしどろもどろになる。


「……どうせ、……どうせあんたもミミみたいな後ろを一歩下がって付いてくるような女がいいんでしょ」


「まあ、日本男子として否定はしないけどさ」


「たしかに、たしかにミミは良い子よ? あたしと同じ年だってのに大人の女みたいにしっかりしてるし、余裕あるし、料理もおいしいし。おしとやかなくせ、茶目っけもあるし。子供っぽいところもあれば、母性もあるし。そりゃあ、さぞ男受けするでしょうね」


「だろうな」


「で、でもっ」


「でも?」


「あ、あたしの方がミミよりだんぜん可愛いもん。胸だって大きいもん。お、お尻だってすっとしてるもん! そ、それにあたしだって、あたしだってがんばれば、がんばれば料理ぐらいなら、料理、……目玉焼きなら、……上手に、……焼けるもん」


 声のトーンをどんどん落としていくシャノ。自分で言って、しゅんと落ち込む彼女に俺は噴き出した。

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