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それから、罠にもモンスターにも出くわすこともなく、三回の小休憩をはさんで迷路を順調に突き進むこと二時間。ようやく目的地にたどり着く。それは現実世界のヨーロッパあたりにありそうな古代神殿を模倣しているようで、乳白色の線の入った石柱が何本か建っている上に微細な彫刻の施された三角屋根が乗っている。
神殿内に足を踏み入れると、ひんやりとした冷気が頬を撫でた。
光源などは見当たらないが、神殿の外よりもどういうわけか明るい。
それに床はピカピカに磨かれていて、ほこり一つ落ちてはいない。まるで鏡のようで荘厳な天井画がばっちり移りこんでいやがる。すげー。
「ひゃぁっ」
振り返ると、背後でシャノがぺたんと床に尻もちをついていた。彼女は真っ赤な顔でワンピースのスカート部分を押さえている。
「ああ、なるほど。パンツ見えちゃうもんな、ここ」
俺の指摘にシャノは首を小さく振る。
「……てないの」
「は?」
「履いてないのっ!」
…………。
えーっと。
「なんで?」
「あ、あんたがあたしのアイテム捨てろって言ったとき、下着も脱げっていったでしょ」
「そうだけど」
「き、着替えがまだあると思って、すっ、捨てちゃったのっ」
「……もしかして、あれからずっとノーパンノーブラだったのか?」
「なっ、なんで付けてないこともバレるのよぉっ!?」
バッと胸元を涙目で隠すシャノ。なんでって言われてもカマ掛けただけなんだけど、言われてみれば腕に潰されたその大きな胸の形とか見れば一目瞭然だよな。ああ、そっか。あの時の違和感の正体はこれだったのか。今思い返してみると、シャノが歩いているときの胸の揺れ方が妙に生々しくて俺の心臓がドキドキしちゃったのはそのせいか。
なるほど、納得である。
「でも、それで良かったんじゃないか?」
「……どういう、意味よ」
「いやだって、もしパンツ履いてたら、俺にはばっちりあんたのパンツが見えちゃうけどさ。履いてないならシステムによる規制の反射光で俺には絶対見えなくなるわけだろ。つまり、パンツを履かないことによって、結果的に鉄壁のガードを手に入れていることになるわけだ」
奥が深い。なんつーか、システムを味方につけたハメ技プレイみたいで面白い。チラリズム・キャンセラーという攻略名を付けて、うちのギルドの女性陣に売り込んでみようかな。未成年にしか効果を発揮しないけど。
しかし俺の考察にシャノはご立腹のご様子。拳で地面をバンバン叩いて抗議してくる。
「例えそうだとしても、あたしにはバッチリ見えてるから恥ずかしいのっ! それに見えなくたって、あんたが目を向けてたら恥ずかしいのっ! つまり、恥ずかしいもんは恥ずかしいのっ!」
「じゃあ、どうすんだよ。俺、先に行っちゃうぞ」
「うっ、う、うう、うぅ」
シャノはぎゅっと目を瞑って名案を弾き出そうと唸る。しばらくして、彼女が弾き出した答えは、腹ばいになってそのまま前へ進む。いわゆる、匍匐前進だった。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよぉっ」
ズルズルと地べたを這いずる虫のように付いてくるシャノを置いて先に進む。
なんか怖い顔で剣を手に持ったおっさん達の銅像が立ち並ぶ間を歩いていくと、何かの儀式に使うような祭壇みたいなものを見つける。その中央には、これ見よがしに奇妙な宝箱が置いてある。その宝箱のカギ穴部分には腕一本入りそうな穴。どうやらここに手を突っ込んで中のものを取り出す方式らしい。宝箱の隣にあった碑文の内容を解読してみると、どうやらこの地下世界から地上に戻るための出口の鍵となる伝説のキーアイテムが入ってるとか、いないとか。
ふうむ。




