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「し、死んだかしら」
シャノは話題を変えるかのように崖下をのぞき込みながら言う。
「さあな。どこまで続いてるのかはわからないけど深いことだけは確かだ。それにあいつ、まだ飛べなかったみたいだったし、もし生きてたとしても登ってくるには時間がかかるんじゃねえかな」
「……え?」
「気づかなかったのか? あいつ一回も翼を使って飛ばなかっただろ」
「最初、飛んできたじゃない」
「いや、あれは落ちてきただけだ。入り口の真上の壁に張り付いてたんだよ」
「そうなの? でも、ドラゴンなんでしょ。なんで飛べないのよ」
「俺の想像だけど、飛べないというより、飛ぶことをまだ知らないんだと思うぜ。あいつ、たぶん自分の翼を飛ぶためのものじゃなく、ただ形がおかしな腕としか認識できてないみたいだった。たいがいの竜種は子育てを基本しないから、幼生体は周りの成体ドラゴンを見よう見まねで勝手に動き方を覚える。でも、あいつは生まれてから、ずっと一人で地下に籠ってたんだろう。だから、自分と同種の生き物がいなかったから、自分がどういう生き物かわからない。だから、自分が飛べるということを、まだ知らないんだ。まあ、そのおかげで攻撃も平面的で、ずいぶんと助かってたんだけどな」
「……ふうん」
シャノは奈落の底を見ながら悲しそうな顔をした。まあ、可哀そうであるが、所詮それは俺の想像した設定の話であって、実際のとこどうなのかわからないので感情移入しても仕方のないことである。
俺はパンパンと手を叩いて場の空気を入れ替えた。
「とりあえず、散らばったあんたのアイテム回収したら、先に進もうぜ」
俺が先に続いている一本道を親指で指すと、シャノはこくんと頷いた。




