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「ほら、はやく。裸になってくれ」
泣きわめくシャノに諭すような口調で俺はせっつく。良い加減、右手も左手も握力ゲージがまずいことになってきてるので。筋繊維がプツプツと切れていく音が聞こえる。
「あ、そうだ。ブラは脱げると思うけど、パンツはどうする? 俺が足持ってるから脱げないよな。自分で破壊できるか? それとも俺がナイフを落とそうか」
「ひっく……、ひもだから脱げるわよぉ……うぅ。でもやだぁ、やだやだやだ。あ、あんたの前で、は、裸になるなんてぇ」
「まあまあまあ」
「うっ、ひぅ、見ないでぇ。見ないでよぉ?」
「ああ、見ない見ない。まあ、見てもたぶん規制の反射光が入るから大丈夫だって」
「そういう問題じゃないわよぉ……あうぅ、うぅ、ずび。め、目ぇ開けたら、ほ、本当にころすからね?」
「おーけー」
俺はぎゅっと目を閉じなおす。もぞもぞとシャノが動いて、パチンと何かの留め具を外す音や、シュルルと何かの紐を緩める音がする。
「…………ぬ、脱いだ」
嗚咽を抑えて、しくしくと泣きながらシャノは再び自己申告した。なるほど。やっぱり俺の計算は違ってなかった。これで、ちょうど彼女を引き上げるぶんの筋力値が足りる。
「よし。んじゃあ、動かすぞ」
「…………うん」
俺は崖ヘリを持った右手に力を入れて、自分の身体をまず引き上げる。足を引っかけて崖に腹ばいになると、つづいてシャノの足を掴んでいた左手をゆっくり引き上げた。
「ぜっ、ぜったいっ、目を開けちゃだめだからね?」
「そんなに絶対絶対って言われるとなー」
「ぶっころすぞ」
「はい」
俺は絶対に目を開けることなく、シャノを崖上まで引き上げることに成功した。
「じゃあ、とりあえず服を着てくれる?」
「……うん。ぜ、ぜったい」
「目は開けないって」
「……ん」
再び衣擦れの音が俺の耳をくすぐること十数秒。『もういいわよ』というシャノの消え入りそうな声で俺は目を開けた。目の前には白いワンピースに黒外套を羽織ったいつものシャノが立っている。しかしながら、俺は彼女の膨らんだ胸部にさっきまでとは違う何かしらの違和感を覚えた。それにシャノがもじもじと泣きそうになりながら恥ずかしそうに丈の短いワンピースのスカート部分を引っ張ていることも気になる。
「何してんの」
「うっ、うっさいあほっ。な、なんでも、ないわよっ」
犬歯をむき出しにして俺を威嚇するシャノはやっぱりどういうわけか、太ももをすり合わせている。挙動不審すぎるだろ。俺の訝る視線に耐えられなくなったのか、彼女は前髪で俺の視線をガードし始める。なんなんだ、本当に。




