表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョンガイドさんの仮想現実生活ログ  作者: まいなす
『第1話 ダンジョンガイドさんは迷った』
138/183

54


「だから俺は最初から残るつもりでいた。いやマジで本当だぞ」


 俺の言葉に、シャノは小さく頷いてムスッと視線を外して口を開く。


「……みたいね。……じゃ、あたしも残ってあげるわよ」


「いや? いらんから帰れ」


 慌てて自分も残ると言おうと口を開きかけていたユーリくんを遮って俺はシャノにしっしと手を振った。するとシャノは顔をしかめて俺のみぞおちに人差し指を突き刺してグリグリし始める。


「あんたねぇー。そのHPでなんで時々そう生意気なのよ。このあたしが残ってあげるってんだから、泣いて足でも舐めて感謝してればいいのよ」


「まったく迷惑この上ねえな。言わせてもらうけど、足手まといだ。それは、ここにいる俺以外の人間全員に言えることだ。だから、お前らさっさと帰れ」


「っ!? なにをぉーっ! ユーリさまの方がお前なんかより百倍強いもんねっ!」


 いや、それは四つほど桁が違うかな。ミカゲちゃんのつっかかりに冷静に分析してみるが、まあ、それはどうでもいいや。


「確かに強い。でもそれは、モンスターとの戦闘においてのみ。言ったろ。これは救出クエストだ。モンスターと戦うことが主眼じゃない。ここまでこれたら、あとはこの最下層を隠れてこそこそ探索して、どっかのバカタレちゃんを救出してくるさ」


「……たしかに、きみの気配遮蔽系スキルは強力かもしれない。並みのモンスターなら視界にきみが入ってたとしてもヘイトが寄らないだろうね。でも、外にいるアレは違う。そんな小手先のことなんて通用しないんじゃないかな」


 ユーリくんの反論に俺は肩をすくめた。確かに、気配遮蔽のパッシブスキルだけではクラウソラスの蛇眼は誤魔化せないだろう。なら、アクティブスキルを重ねるまで。

 俺は、【インヴィジブル・ヴェール】を発動する。あんまり、俺のジョブ固有スキルを他人には見せたくはなかったが、やむなしだ。


「えっ? ええええっ!?」


 シャノの驚く声。途端に、その場にいた俺以外の全員の目が見開かれた。みんな周囲をきょろきょろ見回して俺の姿を探す。ユーリくんとミミさんはさすがで、すぐさま幻術無効化系の魔眼スキルなんかも使ったりしていた。でも、残念。俺の【インヴィジブル・ヴェール】のランクはエクストラ。つまり、規格外だ。システムの枠組みにある通常スキルの類では、どんなにランクが高くても破れない。


 俺が転移魔法スキルでも使えたんじゃないか疑惑が出てきた頃合いで、俺は【インヴィジブル・ヴェール】を解除した。


「んなっ!? あ、あんた、どこに行ってたのよっ!」


 シャノの言葉に、俺は自分がずっと突っ立ていた場所を指差した。


「ずっとここにいたぜ」


「……やっぱり、スキルを使ったんだね。でも、いったい何を使ったんだい」


 ユーリくんが静かに俺に聞いてきた。

 うーん。


「企業秘密」


「なるほど。言えないってわけか。でも確かに、すごいスキルだ。僕の【梟眼】も、ミミの【鷹眼】も通用しないなんて。おそらくランクA以上は確実の――――。いや、よそう。わかった。きみのそのスキルを使えば、確かにどんなモンスターがいても大丈夫そうだ。それで、救助者がいる場所の検討はついているのかい?」


「いいや。今までの階層を調べまわったけどいなかった。だから、たぶんこの最下層のどっかにいるはずだ」


「調べまわったって、いつの間にそんなことしてたのよ」


「気づかなかったのかい、シャノ。トーノは僕らが休憩している間に偵察って言ってはその階層を歩き回ってたようだよ。まあ、その階層のドロップアイテムでも回収しているのかと思って黙ってたんだけど。いったいどうやって、モンスターとの戦闘ができないユーリにダンジョン探索ができるのか、ずっと気になってもいたんだ。でもようやく解決できた気がするよ。さっきのスキルがあれば、容易いかもしれないね」


「ザッツライご名答だ、ユーリ。なんだバレてたのかよ。ちなみにアイテム回収もしてたんだぜ。おかげさまで懐はたんまりさ。まあ、そんな感じで。この最下層にクエスト出したやつが、必ずいるはずだ」


 そう、いるはず……なんだけどな。どうやら、この退避部屋にもいなかったようだし。外でクラウソラスの目をどうやって誤魔化してんのか気になるところだな。それは本人から直に聞いてみよう。


「というわけで、俺一人ならどうとでもなる。というか、ここまで来れたら、この救出クエスト、俺一人じゃねえとどうにもなんねえよ」


 たぶんだが、クエスト依頼者はアルブスゴーレムと戦ってるか何かしてるときにクラウソラスが乱入してきたんだろうなー。んで、クラウソラスがアルブスゴーレムを倒してしまった。そうなると、全てのダンジョン最下層に備えついている脱出用魔法陣が起動しない。ランクAダンジョンのそれはダンジョンボスをプレイヤーが倒さないと出てこない仕組みになってるのだ。そこで帰れなくなった依頼者は、この最下層のどっかで息を潜めてクラウソラスをやり過ごしながら一週間ともに過ごしたに違いない。


 想像しただけで地獄だなー。


 まあ、どうして引き返さないのかは気がかりだけど。どっかのおバカさんであるまいし、マップに自分が踏破した場所を記録していなくて帰り道がわからないというわけではないだろう。もしかして、負傷しているのかな。


 それも本人を見つければ、わかることである。その時に考えればいい。


 さしあたり、目の前のパーティメンバーにはさっさと帰還してもらってだな。俺が考えていると、シャノがジト目でこっちを見ていることに気づく。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ