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まあ、確かに。ジョブがわかってれば、もしそのプレイヤーが敵になったとき、使ってくるスキルもおおよそ予測できるんで、対策を立てやすい。だからこそ、ジョブの開示はお互いに信頼してますよーという一種の保険のようなものとして使われる。
そう考えると、ジョブを偽った俺は疑われても仕方がないことは確かである。しかしながら、それはこっちが向こうに危害をくわえようと何か企んでいるというわけではなく、ただの自衛の手段というか、面倒なことにならないよう避けるつもりで騙ったわけで。
なんせ、俺のジョブはサーバーに枠が一つしかない最上位のジョブのうちの一柱だ。もし、その情報が広まればレアジョブ狩りをしているこわーい人たちの標的になりかねない。最近、そういうのが多いと聞く。俺は別に対プレイヤーチートだから誰が何人来ても構わないが、そんな正攻法だけでくるような直情型な悪人だけが、この世の中を跋扈しているわけではない。俺の知り合いを人質なんかにされたら堪ったもんじゃねえし、そもそも四六時中、気を張っているわけにもいかない。
俺が自分のジョブを明かすのは、本当に信頼できる人間だけだ。その人たちに例え裏切られたとしても、笑って許せるくらい完全に信じ切れた人たちだけなのだ。そして、俺がなんであるのかは今までに五人しか、つまり現ギルドメンバーにしか明かしていない。
そういう意味で、俺はまだ目の前にいるユーリくんたちを信用できていない。
だから、問いの答えは決まっている。
「俺は、やっぱり【略奪者】だね」
何かを言おうとしたユーリくんを手で制する。
「これは自分の身を守るために言ってることだぜ。ユーリなら、まあ、わかるだろ?」
俺の言葉に、ユーリくんとミミさんはハッとした顔で息を呑む。なるほどね。知ってるのは、彼と彼女だけなのか。【分析眼】で俺が確認したユーリくんのジョブは、【円卓騎士】の他に、もう一つあった。そして、彼のスタータスも【円卓騎士】としてのものと、もう一つ。振り切れてバケモノみたいになってる数値が並んだステータスがダブって見えていたのである。今までそれを不用意に指摘しなかったのは、彼のことをまったく信用していなかったからだ。けれども、ダンジョンを一緒に潜っていくなかで、ユーリくんをある程度は信用に足る人間であると判断した。だから、先の思わせぶりな台詞を言ってみることにしたのである。
これで、少しは牽制できたかな。
そう思いつつ、ユーリくんの出方をうかがう。
「……わかった。この件は、またあとで、二人で話そう」
彼は表情の読み取れない顔でそう言った。ひとまずは保留ということで、俺もそれを了承する。
「あーのー」
と、ここで、非常に申し訳なさそうな声音でドクさんが片手を小さく挙げて自己主張する。彼女はさっきから帰還魔法の詠唱を始めていたのであるが、何かトラブルでもあったのだろうか。
「じつはー、そのー、」
歯切れ悪く彼女は人差し指をくっつけたり離したり。そんな様子にその場にいる彼女以外の誰もが首を傾げる。
「すんませんっしたぁーっ!」
そんな感じでドクさんは普段の眠そうなダル思い態度とは打って変わって、素早い動作によるジャンピング土下座を敢行したのである。




