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俺はクラウソラスに集中する。
目の動きを見ろ。
筋肉の軋みを聞け。
そして、試行と思考を同時並行に行って、正しい答えを見つけろ。
俺は何度もクラウソラスに向かっていく。そして、やつが何かをしようとする気配や予備動作を察知したら何も考えず後方に跳躍してやつの間合いの外へ回避する。そして、観察する。やつが何をしたのか。それから、その動作を予備動作と結びつけて記憶しておく。その試行錯誤を何度も繰り返して、クラウソラスから予備動作と攻撃モーションの関連付け情報を片端から引っ張りだし、やつの引き出しをどんどん空にしていく。
そうすると、最初のうちはクラウソラスが攻撃を行う前に後方に跳んで避けていた俺も、次第に一度目の攻撃を退かずとも回避できるようになってくる。それができるようになったら、今度は同じように二度目の連撃の対処に取り掛かる。やつはいったいどんな組み合わせの連撃を行う傾向にあるのか。やつはいったいどんな組み合わせの連撃をやらないのか。一度目の攻撃の回避の仕方によって、二撃目にどんな攻撃がくるのか特定できないか。
死地における時の流れはわりと速い。
クラウソラスとの戦闘を開始して、気が付くと、もう十七分は経過していた。
残り、三分。インスタントも伸びない良い時間である。
その頃になってくると、すでに俺はクラウソラスの間合いから一歩も退かずとも、その次々と繰り出される攻撃を回避できるようになっていた。早かったなー。幼生体ということが幸いだったのかもしれない。竜種なのでもともとの知能は高いが、まだ若いため狡猾性が低かった。そのおかげでフェイント攻撃の予備動作が分かりやすかったのである。これが成体のうちでも古竜とかだったなら、老練な手管によってこんなに簡単にはいかなかっただろう。それに、こっちの回避の仕方で、ある程度、次の攻撃の種類に指向性を持たせることも見出したのはデカい。
もしかしたら、唯一ドラゴスレイヴ属性を持ってたダルマさんがああなってなかったら、討伐できていたかもしれねーなー。まあ、それはダルマさんが俺の言うことを信じてくれたらの話であるが。
そう思いながら、次に来るとわかっている尻尾攻撃に備えて、間合いを取るために後方に跳躍した。
すると、俺の生存本能が何やらレッドアラート。
――――げっ。
しまった。もう少しだと思って、油断した。
おそらくこれは攻撃パターンを丸裸にされてしまったクラウソラスが痺れを切らせて出してしまった隠し玉の類。要は奥の手というやつだろう。
確かに、俺の読み通り次の攻撃は尻尾攻撃だった。しかし、その間合いが想定していたのと違って長い。やつめ、それなりにはズルかったらしい。尻尾をある程度ゴムみたいに伸縮できることを、今の今まで隠していやがった。




