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「ト、トーノくん。あなた、まさか……?」
俺は肩をすくめてダガーナイフを構えた。
作戦変更。というか、本来の作戦をミミさんに伝える。
「ミミさんは柱の陰にでも隠れながら、ただしいつでも撃てるように狙ってて。俺はちょっと接近戦して蠅になってくるんで、もし俺が危なくなったら、もしくは危ないと判断したときだけ、適宜援護を」
「だ、だめよっ! トーノくん、死ぬつもり?」
「死ぬものかよ。死んでたまるか。まだやりたいことは山ほどあるんだ。だからこそ、慢心はしない。ミミさんはそのための保険だよ。だから、頼む。俺を死なせないようにもしものときは援護しくよろ」
神さまが特別にくれたこのロスタイムをまだ終わらせるわけにはいかない。
俺はミミさんの肩を気軽に叩いて彼女の目を見る。彼女の尖り耳がピクリと動いた。
「俺が保証する。あんたの腕は、この状況で俺の命を乗っけても大丈夫だと、この俺が判断した。こと、人間を見る目には自信があってね。こういう判断は今まで間違ったことがないんだ。それに、そんなに絶望視する必要もない。これはやつを討伐するのが目的じゃないからね。勝利条件はタイムリミットまでやつを足止めすること。ミミさん知ってるかい? 昔から攻撃っていうのはね」
当たらなきゃ、どうということはねえのである。
俺は手に持ったダガーナイフを逆手に持ちなおして、咆哮して動き始めるクラウソラスに向かって駆けだした。




