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俺はパーティーメンバーのとこに戻っていく。
「あっ、あんむむーっ! むーっ!」
何かを叫ぼうとしたシャノの後ろに回り込んで口を手で塞いだ。時間がねえのだ。こっちは。最初、パーティ内の口論を聞き流しながら、こんな博打をやるかやらないかで迷ってたら、こんなにギリギリになっちまった。優柔不断は俺の悪い癖である。
「手短に言うぜ。ブレスは恐らくなくなったけど近距離戦は無理だ。遠距離物理攻撃のできるミミさんと俺であれを足止めする。時間稼ぎだからダメージは入らなくていい。遠距離から攻撃して、やつのヘイトを上手くコントロールしてできるだけ退避部屋の壁から離すんだ。残りはダルマさんを引っ張って退避部屋の前で待機。開いたら中で待っててくれ。帰還魔法スキルはまだ使うなよ。クラウソラスのヘイトがそっちに極大集中してしまう。さあ行動開始だっ! 今すぐっ!」
ミミさんがすくっと立ち上がって頷く。
それを確認したユーリくんは俺の方を見て頷いた。
「わかったよ。トーノくん、ミミを頼んだ。よし、みんな行くよっ!」
ユーリくんがダルマさんを引っ張って退避部屋の方へ先導する。
そこでシャノを解放した。ほら、さっさと行け。しっし。
彼女は振り返って、再び何かを言おうとしたが、俺はそれを手で制する。
「文句は、あとで聞く」
「……ぜ、絶対だかんね」
シャノはそれだけ言うと、ダルマさんを引っ張るユーリくんを手伝って退避部屋がある方へ駆けていった。
ちょうど時を同じくして、クラウソラスの後ろのボス部屋の入り口がゆっくりと閉まり始めた。焦らしプレイに耐えていたクラウソラスはそれを待ってましたと言わんばかりに地を引っ掻き今にも向かってきそうである。
「どうするの? トーノくん、ごめんなさい。さっきは頷いちゃったけど私、どこをどのタイミングで攻撃すればヘイトが集まるくらいのダメージを与えられるのか見当もつかないの。どこを狙えば?」
ミミさんが弓に矢をつがえて構えながら言った。俺は、矢を絞る彼女の震えている右手に手を添えて下ろさせる。
「え? トーノくん?」
「さて、ここでクイズ。ミミさんの足元に蟻んこが一匹いたとする。どうする?」
「……どうもしないわ」
そう。どうもしない。なぜなら、それが虫けらだからだ。蟻一匹いたところでこっちには何の脅威にもならないからだ。それは蟻二匹でも同じこと。
「じゃあ、もし。同じ虫けらでも目の前を飛び回る蠅だったら?」
俺の言葉に、ミミさんは生唾を呑み込んだ。




