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「十五分だ。十五分後に退避部屋の扉が開く。もともとはアルブスゴーレムの全方位魔法レーザー攻撃を回避するための安地だ。そこではアイテムが使えることがわかってる。つまり、そこはボス部屋扱いじゃないんだと思う。だからドクさんの帰還魔法が使えるはずだ」
ユーリくんが指をぱちんと鳴らす。
「そうか。そんな手があったか。ごめん。慌ててて気づかなかったよ。クラウソラスが動き出すまであと五分ってところだね。退避部屋が開くまで十五分。つまり、十分間はあれと戦わなければならないってことか」
「いや、二十分だな。退避部屋の扉は十分間は開きっぱなしだ。小さい部屋だし、入り口にクラウソラスが首突っ込んだら部屋の奥まで届くからおちおち帰還魔法なんて使ってられない。だから、退避部屋の扉がギリギリしまるまで戦って、閉まり始めたらその中に滑り込んでクラウソラスを締め出すしかない。あ、ドクさん。ちなみに帰還魔法の詠唱はどれくらいかかる?」
「え、えーとー。五分くらい、かなー。調子いいときでだけどねー」
「よし。退避部屋は一度しまったら三十分は開かない。入ってしまえば十分に帰還魔法を使える。よし、よし」
「でも、どうするのよ。あんなバケモノと二十分も戦うなんて」
「こっちのダメージソースであるダルマがやられちゃったのは痛い。今のパーティじゃまともなダメージも与えられないよ。それにこの状態のダルマを抱えてちゃ、まともに戦うことすらできない」
「じゃあ、ダルマを見捨てろって言うのっ?」
シャノがユーリにつっかかる。
「それも、考えなきゃいけないかもしれない。囮にして時間を稼ぐ、とか」
「なっ、なによそれっ! ユーリあんた本気で言ってんじゃないでしょうねっ!」
胸倉を掴んだシャノに、ユーリくんは言い聞かせるように静かな口調で言った。
「僕はみんなを助けなくちゃいけないんだ。一人の犠牲で他のみんなが助かるなら僕はそっちを選ぶよ」
…………。
その犠牲になった一人ってのも、助けるべき『みんな』の中に入っているんだぜ。
だから、その台詞は。
その台詞は犠牲になるやつ以外が言っちゃだめだ。
そう思ったが、俺は何も言わない。ユーリくんの言ってることも、やっぱり正しいからだ。




