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「あと三分二十五秒でこの壁が開く。そしたらダンジョンボスだ」
俺は白い大理石風の壁の肌を右手で撫でる。
そんなわけで、最下層のボス部屋前まで来ていた。
ここまで、約一週間という長め行程だったが、ついにそれも終わる。
ここのダンジョンボスは【デブリス・アルブスゴーレム】だ。見た目は白い巨大な悪魔像で、HPと防御力がトップクラスなうえ物理系攻撃もかなり強い。また、この先のボス部屋は地下大空洞で神殿になって、遮蔽物があんまりないからアルブスゴーレムの口から放たれる超特大魔法レーザー砲攻撃は回避するしか防御する手立てはない。また、最初にボス部屋大神殿の五つの祭壇にそれぞれ置かれた五つのオブジェクトを破壊しないとアルブスゴーレムにはダメージが入らない仕組みになっている。そして、そのオブジェクトも一定以上のダメージを無効化するシールドと、三回屈折する魔法レーザー撃ってくるから、今までモンスターの戦闘で苦戦という苦戦はしてこなかったこのパーティでも、わりと手こずるんじゃないだろうか。
「まあ、あんたたちと話せるのがこれで最後になるかもしれないから、言っておく。わりと楽しかったよ。じゃあ、がんばってな」
ぶーぶー。
ユーリくん以外からブーイングがあがる。
そんな感じで道中にあらかた持ってるボス情報は伝えていた俺は、最後にそう言ってそそくさと壁から離れた。俺の言葉に苦笑いしたユーリくんが後を引き継ぐ。
「よし。それじゃあ、打ち合わせ通りに行こう。一応、確認。僕とシャノとドクでアルブスゴーレムの注意を引いている間に、他の三人はオブジェクトの破壊を順番に行ってほしい。ドク、そろそろ、みんなにバフを」
「おーけーぼくじょー」
ドクさんがアルブスゴーレム耐久組に【物理防御up】【魔法防御up】【光属性耐性up】【HP自動回復up】などの防御系バフを、そしてオブジェクト破壊組に【敏捷up】【物理攻撃up】【闇属性up】などの攻撃と素早さ系のバフをかけていく。ボス部屋ではアイテムが使えないので、ここで大量のMP回復アイテムを上手に使いこなして、さらにバフの持続時間も考慮しつつ、彼女が順番に俺以外の全員にバフを三重にかけた。それが終わる頃には、ボス部屋の壁が開かれる十秒ほど前になっていた。
「いつも通りやれば平気さ。安心して。この剣に誓って、みんなは僕が絶対に守るから――――」
俺があげた長剣を片手に持ったユーリくんの熱き台詞に、ハーレム要員の女の子のみならず俺までも視線が熱くなる。キャーステキー。
「なに顔を赤くしてんのよ、キモい」
シャノが俺のつま先を踏みつけて俺が痛みで飛び跳ねたその瞬間、かくしてボス部屋は開かれた。白い壁がズルズルと上に上がっていく。それが完全に開かれる前に、ユーリくんは剣を構えて走り出した。他のパーティメンバーも彼に続いてボス部屋に殺到する。もちろん、俺は最後尾のしんがりだ。




