35
「何か隠してるでしょ」
ぎくり。
「なぜバレる」
「女の勘」
シャノの勘は図星だった。
俺は彼らに言っていないことがある。
彼らは疑問には思わないのだろうか。ダンジョンのこんなところにどうして宝箱があるのか。どっからこの宝箱が出てきてるのか、と。一部のプレイヤーはASAのシステムで自動的に出現しているのだといい加減なことを言うが、火のないところに煙は立たないことは言うまでもない。
俺は依然、【ミミック】の生態を調べている最中にその死期に偶然立ち会ったことがあった。その時にはもう、普通の宝箱か【ミミック】か見分ける方法を見出していたから、【ミミック】が餓死した途端にピシッと揃ってた年輪がぐにゃーと曲がったことに気づいたときはびっくりしたぜ。
つまり、そういうことである。
そんなことをバラして、あのレジェンダリ武器がもとは【ミミック】が生前に捕食したどこぞのプレイヤーの所持品だったかもしれないと知ったら、ユーリくんは決して受け取ってはくれないだろう。この宝箱にそっと戻すかもしれない。
けれども、そうするとあのレジェンダリ武器が再びその役目を果たすときがくるのはいつになるのやらわかったもんじゃない。こんなところで腐らせておくくらいなら、イケメンの手で存分に力を発揮させたほうが良いに決まってる。
それに、この先ずっと、宝箱があったらこのことを思い出して開けてくれないかもしれない。それが【ミミック】ではなく、【コボルト】かなんかが守ってたマジもんの宝箱だったとしても、だ。
実際に【ミミック】の死骸か本当の宝箱かを見分ける術は、まだ俺でも見つけられていないので、そういう意味では【ミミック】の見分け方問題は未だに闇の中である。
そんなわけで、世の中には知らせない方が良いことはたくさんあるのだ。
「黙っといたげるから。あとで、あたしには教えなさいよ」
シャノが小声で言う。それに対して、俺は仕方なしに頷くのだった。まあ、シャノはたぶん教えてもユーリくんみたく気にしないだろうしね。
いいよなー、あまり考えない人間はー。
「むぅ。あんた、今なんか失礼なこと考えてない?」
再び肘で脇腹をつついてきたシャノに、俺はため息を吐いて即座に否定した。




