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まぶしさに目を細めていると、隣でシャノが拗ねていることに気づいた。なんで?
「あたしも、剣士系なんですけどぉー」
俺にだけ聞こえるように呟く。そんなシャノに、ため息する俺である。
「あんたせっかくハルバード振り回す努力したんだろ。ここで俺が長剣渡したらその努力に水を差すことになる。だからまあ、今度ハルバード系のレジェンダリ武器が出たら贈ってやるよ」
「うっ。そ、それならいいのよ。あたしのこと、ちゃんと考えてんならね」
顔を背けるシャノの口元はニヘラァとだらしなく緩んでいる。何か良いことでもあったのかな?
俺が首を傾げていると、今まで黙っていたミカゲちゃんが声を上げた。
「いやっ、待てッ! なんか結果的にいい感じに終わろうしてっけど、もしそれが【ミミック】だった場合、アタシらは死んでたかもしれないんだぜっ!」
「……た、たしかにそうだね。トーノ、今度からはこういう危険な博打みたいなことは止めてほしいな。キミのためにも、そして、みんなのためにもね」
ユーリはミカゲちゃんの意見をくみ取って俺を戒めた。しかしながら、それは見当違いってもんだぜ。俺はやれやれと首を振る。
「確かにミカゲちゃんの言うことは確かに的を射ているよ。高難度のダンジョンほど潜るプレイヤーも少ないから【ミミック】は飢えていて死に物狂いで襲ってくるからね。パーティの半分くらいは死んでたかもしれない。もしこの宝箱が【ミミック】の擬態かどうか判断できなかったら、俺は開けなかったよ」
「……あるのかい? 【ミミック】を見分ける方法が?」
察しの良いユーリくんが僕の言葉に驚く。
「ああ、実はあるんだよ。【ミミック】かどうか、簡単に見分ける方法が」
「ま、まじでか」
ミカゲちゃんが生唾を呑み込む。それもそうだ。盗賊系ジョブにとって【ミミック】は最悪の相性である。もし見分けることができたなら、お宝は見逃さなくてすむし、【ミミック】に追いかけまわされて無駄な死線をくぐる必要もない。
「ど、どうすればいいんだ?」
俺は宝箱を指差した。みんなの視線が一気に俺の指先に集まる。
「宝箱は木製の部分がある。その木目を見るのさ。普通の宝箱は年輪の幅がバラバラだけど、もし【ミミック】だったらピシッと等間隔で並んでいるはずだ」
場の空気は沈黙する。もっと難しい方法だと思っていたのだろうか。
「え? それだけ? ええっ!? そ、そんな簡単にわかるもんなのかっ!? 嘘じゃねーだろうな?」
ミカゲちゃんが俺に詰め寄ってくるが、嘘ではない。そう、嘘では。
「まあね。これは普通の宝箱だから年輪がピシっと揃ってるのが見れないけどさ。今度、ミミックっぽい宝箱見つけて、もし年輪が揃ってたら一回試しに開けてみるといいよ。絶対【ミミック】だから。あ、でも試す前に対【ミミック】用に万全に準備してからのほうがいいけどね」
俺の暴露話に場は一気に盛り上がる。【ミミック】だと思って、今まで開けずにおいた宝箱が多かったのだろう。その様子を微笑ましく思いながら眺めていると、ふと隣に立っていたシャノが肘を俺の脇腹にあてた。




