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「それで? 入り口はどこにあるのよ」
シャノは俺の足をせっせと蹴りながら聞いてくる。
「……ああ、ちょっと待ってな」
俺はモノリスに触れ続けていた右手を押し込む。すると、それは音もなく背後に倒れて、地面へ段々と沈んでいく。数秒と立たないうちに、目の前には地下へと続く白い階段ができていた。
ようやくシャノは俺を蹴ることを止めてそこをのぞき込む。まるで何かのバケモノが呼吸をするかのように、ヒューヒューと風が出入りしていた。
生唾を飲み込むシャノ。
「おやおや。もしかしてもしかすると、シャノさんや。ひょっとして、怖いのか?」
「だっ、だれが怖いもんですかっ!」
ムッとした表情になる彼女の足は少し震えている。そんなシャノさんに俺は手を差し出した。
「怖かったら俺が手をつないでやっててもいいんだぜ。ほれ。ほれほれ。そう遠慮しなさんな。昨日はちょっとしか握れなかったからな。シャノの努力の賜物を俺に握らせてくれ」
「……っ、い、いやよっ! いやいやっ! ばっかじゃないのっ! 本当にあんたばっかじゃないのっ! ほらっ、さっさと行くわよっ!」
顔を真っ赤にして俺をぽかぽか殴ったシャノは先陣を切って白い階段を下りていく。おそらく、白階段を下りて行った先にある扉の開錠は彼女にはできないので、少し追いかけずに放置するのも面白いかもしれない。俺はそう企んでいたのであるが、シャノのあとをすぐさまユーリくんが追いかけていってしまった。残念。
「トーノくん」
俺がため息していると、ミミさんが話しかけてきた。
「なんすか」
「シャノのこと、よろしくね」
そんな台詞とともに俺の手をしばらく握った彼女は、いそいそと階段を下りていく。
「いてっ」
「よろしくなッ!」
ボケっとしてると、続いてダルマさんに背中を叩かれた。
「よろー」
ドクさんに手を振られる。
「……頼むぞ」
最後にミカゲちゃんがボソっと呟いて地下に下りていった。
ははあん。
なるほど。
確かに、このダンジョンを潜るにあたって一番心配なのはシャノである。彼女の傍若無人っぷりはギルド内でも発揮されているらしく、また、それをコントロールできそうな人間もこのパーティにはいなさそうだ。わかりましたよー。俺が責任をもってシャノが迷惑かけないように見張っとかないとなー。
呑気にそう考えながら、俺は白階段を下りてった。




