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「あぶね」
鼻先でギリギリ制止した巨石に冷や汗かきながら生唾を飲み込む。いやー、あせったわー。うっかり途中で足を滑らせたせいで想定していた攻略ルートから逸脱してしまい、代替ルートでアドリブ攻略しなければならなかったため、今みたく危うくお陀仏になりかけたのである。あとコンマ一秒遅かったら牽かれたカエルみたく、ぺしゃんこになっていたことだろう。くわばらー。くわばらー。あれだけ言っといて恰好が悪いので、このことはシャノには内緒である。
まあ、なんにせよ。どうやら予想以上に疲労がたまっているらしい。このクエスト終わったら俺、メイメイにマッサージしてもらうんだ。そんな感じで盛大にフラグを立てながら、自分の実質敏捷値を頭の中で下方修正しておく。ほんとに死ぬのはゴメンなので。
ここで、地響きを立てて目の前にあった巨石が、その無骨な巨体を引いていく。万歳をした状態で寝転がっていた俺は、白いモノリスに触れている右手はそのままで上体を起こした。
周りにあった巨石の壁がどんどん地面の下に収納されていき、薄暗かった空間に外の光が差してきて視野がみるみる開けてくる。これならもう魔法補助スキル【ナイトヴィジョン】を使わなくても大丈夫だろう。緑色に調整されていた俺の視界に他の色が戻ってくる。
しばらく周囲は石の柱が乱立する更地に戻った。
遠くでシャノが笑顔でこっちに走ってくる姿が見える。その後ろから、ユーリくんたち他のパーティメンバーそれぞれがそれぞれの表情を浮かべながらついてきていた。
埃を払って立ち上がる。
程なくして、シャノが俺の目の前までやってきた。
「やるじゃない、あんたっ! やるじゃない、あんたっ! やるじゃない、あんたっ! あははっ!」
「どーも」
満面の笑みで俺をビシビシ叩いてくるシャノ。痛いから止めてください。
「いや、驚いたよ。キミがいなかったら僕らは入ることすらできなかった」
「ええ、ほんと。トーノくん、すごい」
「あたしゃ見直したぜ、トーノっ」
「やるねー、トーノ氏ぃ」
「……ま、少しは認めてやってもいいけどな。す、少しだけだぞっ!」
いやあ。
それほどでもお。
誰かに認められるということは素直に嬉しい。イケメンと女の子たちに言い寄られて俺の頬は自然と緩む。
「…………ふん」
すると、何が気に入らないのか、シャノは笑顔から打って変わって不機嫌そうに頬を膨らませると、俺の足をげしげしと蹴り始めた。痛いから止めろ。しかしながら、彼女はまったく止める気配を見せない。




